EXHIBITIONS

記憶をほどく、編みなおす

ギャラリー無量
2023.10.07 - 11.06

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 ギャラリー無量で 「記憶をほどく、編みなおす」が開催されている。

 本展は、東アジアにルーツを持つ現代美術作家たちが、富山県・砺波市の散居村風景に佇む日本家屋を舞台に、それぞれの幼少期の記憶や経験を紐解き、語り直すことで、社会の周縁の物語を人々に想像させるものとなっている。キュレーションは清水冴(1997〜)。

 出品作家は、石田愛莉、中森あかね、ジョイス・ラム、O33、富山妙子。

 石田愛莉(2000〜)は、家族の古着、糸や布を用い、幼少期に祖母から教わった 「手芸」を技法として制作。「手芸」は近代以降、女性の家庭内の労働・趣味と位置付けられ、「美術」や 「工芸」から周縁化されてきた。石田は、祖母のように美術教育を受けることも、自らを 「アーティスト」と名乗ることもなく、ただ人生の様々な場面で、針と糸を手にして生きてきた人々に特別な思いを寄せている。またタイトルの通り、本展は 「手芸」というモチーフからインスピレーションを得ており、展覧会全体が様々な物語の交差するパッチワークをイメージしている。

 また、 中森あかね(1962〜)は、1998年より彗星倶楽部ディレクターとして現代美術作家の作品を紹介する傍ら、自身の制作を続けてきた。幼少期に父を自死で失い、2021年に自助グループを仲間とともに立ち上げた。中森によると自死遺族は、自責感や罪悪感、周囲からの偏見により、社会的に孤立しやすい。中森は、年間12万人ずつ増えていくとされる 「自死遺族」の1人として、自死遺族のわかち合いの場所をつくり、2022年より死者とその死にまつわる人々の尊厳をテーマに制作をしている。自死遺族のわかち合いの場所をつくり、2022年より死者とその死にまつわる人々の尊厳をテーマに制作をしている。

 イギリス領香港に生まれたジョイス・ラム(1989〜)は、香港の統治権が中国へ返還される前に、家族とともにカナダへ移住した。そして、1997年の還後後に香港へ戻るという幼少期を過ごした。その後も、進学・就職のためにイギリスと日本で暮らす経験から、各国・各地域の法、文化、イデオロギーなどに依拠する 「ホーム」や 「家族」の定義に対して関心を寄せている。ジョイスは、自身の家族の歴史に基づき、映像作品、レクチャーパフォーマンスや本の制作を通して、近代の家族制度や 「家族」の定義をとらえ直す作品を手がけてきた。

 033(OU SanSan、1993〜)は、中国・ 内モンゴル自治区で生まれ育ったエスニック・マイノリティとしてのアイデンティティを出発点とし、モンゴル民族を象徴する五畜のひとつ、羊の腸を素材として制作している。漢文化とモンゴル文化のせめぎ合う 「境」で生まれ育った背景から、「外と内」、「自然と不自
然」、「マジョリティとマイノリティ」、「生と死」などを分け隔てる曖昧な境とは何か、探求している。

 富山妙子(1921〜2021)は神戸に生まれ、幼少期を家族とともに占領下の旧満州であるハルビンと大連で過ごした。日本と満州での少女時代を通し、日本人に対する欧米人の横暴な振る舞いと、同じように、満人や朝鮮人を侮蔑する日本人や日本軍を目撃し、深い疑念を抱いていた。敗戦後、ハルビン女学校の旧友たちと心の痛みをわかちあい、戦争が残した傷跡を見つめ、画家としていちはやく日本の戦争責任を描いてきた。今回は、2021年に99歳で逝去した富山の遺族と関係者の協力を得て、《ハルビン・20世紀へのレクイエム》(1995)を出品。

 なお本展は、ギャラリー無量が主催する 「キュレーション公募2023」にて選出された企画である。審査員は、尺戸智佳子(黒部市美術館学芸員)、長谷川新(インディペンデントキュレーター)、松江李穂(埼玉県立近代美術館)、鷲田めるろ(十和田美術館館長)が務める。現在、「キュレーション公募2024」として2024年10月に開催するキュレーション企画を募集していてる。締切は2023年11月3日必着。