EXHIBITIONS

ミュージアム コレクションⅡ

雑誌にみるカットの世界 『世界』(岩波書店)と『暮しの手帖』(暮しの手帖社)

2023.08.05 - 11.19

中村研一 カット原画 『世界』第142号 1957年10月1日 世田谷美術館蔵

宇佐美圭司 カット原画(プロフィール) 『世界』第363号 1976年2月1日 世田谷美術館蔵

花森安治 カット原画(椅子とランプ) 『暮しの手帖』1世紀5号 1949年10月1日 世田谷美術館蔵

 世田谷美術館で「ミュージアム コレクションⅡ 雑誌にみるカットの世界 『世界』(岩波書店)と『暮しの手帖』(暮しの手帖社)」が開催されている。

 終戦後まもなく、それまで抑圧されていた言論が活気を取り戻しつつあった頃、雑誌の創刊や復刊も相次ぎ1946年に岩波書店より雑誌『世界』が、48年には暮しの手帖社より雑誌『暮しの手帖』(当初は衣裳研究所より『美しい暮しの手帖』として)が創刊された。 

『世界』は、岩波書店の創業者である岩波茂雄の意志のもと『君たちはどう生きるか』(37年、初版は新潮社)の著者でもある吉野源三郎を編集長に創刊された総合誌。戦後日本の変化の激しい時代に、一貫して、日本の講和や安全保障、日韓問題、沖縄などの平和に関する問題を扱っていた。また、大江健三郎、中村雄二郎、山口昌男を中心に編纂された論集『叢書 文化の現在』(全13巻、80〜82年、岩波書店)へつながる議論が展開されるなど、文化的に重要な記事が多数掲載されてきた雑誌でもあった。

 いっぽう『暮しの手帖』は、気鋭の服飾評論家であった花森安治が大橋鎭子とともに創刊した生活総合誌。戦争の影響で物資の少なかった当時、生活に役立つアイデアを発信する雑誌としてはじまり、人々の暮らしが大量生産・大量消費型へ変化してからも、商品を実際に使用しデータを掲載した企画「日用品のテスト報告」などの良質な情報を提供し続けた。

 近年、世田谷美術館は新たに『世界』カット原画と、『暮しの手帖』カット原画をコレクションとして加えた。『世界』では、中川一政や加山又造、駒井哲郎、飯田善國、宇佐美圭司、加納光於など、洋画、日本画、版画、彫刻、現代美術と、日本の近現代美術を牽引してきた多様な作家が起用され、それぞれに個性あるカットを寄せている。『暮しの手帖』では、創刊号よりほとんどすべてのカットを花森が手がけ、バラエティ豊かな画風で誌面を彩った。

 本展では、これらの収蔵品より、『世界』と『暮しの手帖』、ふたつの雑誌のカット原画を紹介する。おなじ時代を異なるかたちで歩んだ二誌の展開、そしてカットという表現における、それぞれの描き手を鑑賞できる展覧会となっている。