EXHIBITIONS

平川祐樹「Untitled Tear」

2022.06.21 - 08.06

平川祐樹 Untitled Tear/2022 2022

平川祐樹 Untitled Tear/2022 2022

 平川祐樹の個展「Untitled Tear」が開催される。アンドーギャラリーでは4回目の展示となる。

 平川は1983年愛知県生まれ。場所や事物に宿る「固有の時間」をテーマに、メディア考古学を応用した映像作品を制作している。近年取り組んでいる、失われた映画を扱った「Lost Films」シリーズは国内外で高く評価され、2019年にはロッテルダム国際映画祭(オランダ)、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ)、ショートウェーブス映像祭(ポーランド)など数々の映画祭にて招待上映されている。これまで日本だけでなく、シンガポールやイギリスなどでの展覧会に多数参加。

 本展では、視ることと触れることの根源的な接点をテーマとした新作《Untitled Tear/2022》を発表する。

 新作の映像に現れるのは、カメラの心臓部である撮像素子(イメージセンサー)に直接置かれた人間の涙だ。映像制作において撮像素子に直に触れることはタブーとされているが、作家はそこにあえて一滴の涙を配置して撮影を行った。剥き出しの撮像素子の上で表面張力が生じた涙は、あたかも鈍いレンズのように機能し、不明瞭に外界をとらえている。

 平川は今作において、涙を感傷的な意味やロマンティックな題材としてではなく、より生理的な意味合いの、人間の眼球を保護する涙液(るいえき)として扱う。カメラの撮像素子と人間の涙液、この無機と有機の対極とも取れる2つの物質を直に接合し、そこに新たな景色を見出している。

 かつて光を感知する触手であったとされる眼球、触覚性を獲得したデジタル画像。スマートフォンが急速に普及するいま、多くの人は夜眠る前の暗闇で、端末を片手に日々変化する情報を受信している。その何気無い日常の1コマに、平川は生物の進化史を重ね合わせたと言う。今回、新たなテーマのもとでミニマルな映像世界を見せる。