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モーリス・ドニ

Maurice Denis

 モーリス・ドニは1870年フランス・グランヴィル生まれ。89年にポール・セリュジエ、エドゥアール・ヴュイヤールらとともに結成した「ナビ派」を代表するひとり。ポン=タヴァン村に赴いたセリュジエを除いて直接の指導はなかったが、ナビ派の画家たちはポール・ゴーガンが確立した平面的な画風に倣った。ドニは、印象派に接近しつつも構図に立ち返ったポール・セザンヌや、主題から受ける感情や思考といった人の内面にあるものを、絵画を構成する要素で総合して描くゴーガンらの試み(総合主義)を深く研究し、ナビ派形成の一翼を担った。ドニの理論的な一面は92年のナビ派宣言がよく知られる。自らも総合主義の画家たちが採用したクロワゾニスムの技法にのっとり、対象の単純化、はっきりした輪郭線、平坦な色面を特徴とした作品を制作。陰影を抑えた奥行きのないその平面性は、日本の版画などからの影響も見て取れる。他方、衣服や装飾はアール・ヌーヴォーを参考にした。

 ナビ派のなかには、親密派(アンティミスト)と呼ばれたピエール・ボナールのように身近にあるものを主題にする画家も多く、ドニは《母と子》(1896頃)など、日常のなかの母子の姿をしばしば描いた。敬虔なキリスト教徒でもあったドニは次第に宗教画に傾倒していくが、《母と子》においても伝統的な母子像の構図が取られている。ゴーガンに出発したナビ派は、その後、象徴主義の画家オディロン・ルドンを師と仰ぐようになり、目には見えない神秘的なイメージを追い求めることとなる。また絵画だけでなく、版画や本の挿画、ポスターや舞台美術など多岐にわたって手がけたこともナビ派の特徴のひとつであり、ドニは教会の装飾にも携わった。主な作品に《ミューズたち》(1893)、《マルタとマリー》(1896)など。1943年没。日本では81年に初めての「モーリス・ドニ展」が国立西洋美術館および京都国立近代美術館を巡回。2017年には三菱一号館美術館でナビ派を紹介した「オルセーのナビ派展:美の預言者たち―ささやきとざわめき」が開催された。