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2017.5.29

杉本博司の集大成。
「小田原文化財団 江之浦測候所」が10月に開館

現代美術のみならず、伝統芸能の分野でも活動する杉本博司が手がける「小田原文化財団 江之浦測候所」が10月9日に小田原市に誕生する。このオープンを前に、杉本自身が登壇する記者会見が東京・三鷹の国立天文台で行われた。

夏至光遥拝100メートルギャラリー © 小田原文化財団 / Odawara Art Foundation
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 「小田原文化財団 江之浦測候所」(以下、江之浦測候所)は、杉本博司が10年以上の歳月をかけて構想、杉本と榊田倫之による新素材研究所が設計・デザイン監修を担い、箱根山外輪山と相模湾の間に位置する陸地の切っ先に建設を進めてきた複合文化施設。小田原は、幼少期の杉本にとって「最初の記憶」という海景がある場所であり、杉本が「心のふるさと」と呼ぶ土地でもある。

 ここに開館する江之浦測候所の敷地面積は9496平米、建築面積は789平米。ギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などで構成されており、各建築は平安、室町、大正など各時代における日本の伝統的な建築様式・工法によってつくられ、日本建築史を通覧するものとして機能するという。

光学硝子舞台 © 小田原文化財団 / Odawara Art Foundation

 数々の施設からなる測候所でも、もっとも特徴的なのが2つの舞台とギャラリーだ。カメラレンズの素材となる光学硝子によって構成された「光学硝子舞台」は、相模湾を望む立地を生かし、冬至の朝に昇る太陽光が硝子を照らし出すように設計。舞台と並行するようにつくられた70メートルの「冬至光遥拝隧道」(トンネル)も、冬至の朝の太陽光が貫くようにつくられている。

冬至光遥拝隧道 © 小田原文化財団 / Odawara Art Foundation

 また、石舞台は能舞台の寸法を基本としてつくられ、開発の過程で出土した軽石を使用。舞台に続く石橋は、春分秋分の朝日が相模湾から昇る軸線に合わせて設定されるなど、自然の摂理に沿うような設計が随所に見ることができる。

 「夏至光遥拝ギャラリー」は、長さ100メートルにも及ぶ展示棟。構造壁は大谷石の割り肌(自然石の状態)で覆われ、対面するガラス窓には、支持体のないガラス板が37枚設置され、開放感ある空間を演出している。また、相模湾に向かって12メートルもせり出したギャラリー先端部は、夏至光観測のための展望スペースとして活用される。なお、同ギャラリーでは開館記念展として、杉本を代表するシリーズ「海景」を展示するという。

 杉本はこの施設をつくった理由として「アートでできたお金はアートで還元したい」と語る。「自分のためでなく、世の中に残しておく建物。誰が見てもアートとしか思えないものをつくりたかった」。昨年、東京都写真美術館の個展「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展で文明の終焉を問うた杉本。耐用年数1万年という途方もない時間軸を想定したこの測候所は、現代文明が滅びた後も、古代遺跡として残ることを想定してつくられている。その壮大な考えからもうかがえるように、ここはまさに杉本芸術の集大成と言えるだろう。

 杉本博司と新素材研究所は、IZU PHOTO MUSEUM(伊豆)、MOA美術館(熱海)も手掛けており、江之浦測候所を含めて杉本建築巡礼も可能になりそうだ。江之浦測候所は完全予約制で7月から予約受付を開始する。

会見に登壇した杉本博司。後ろに見えるのは小田原文化財団の紋章(ロゴ)