ドイツに生まれスイスで活動した実業家、エミール=ゲオルグ・ビュールレ(1890〜1956)のコレクションを紹介する「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」が、2月14日に東京・六本木の国立新美術館で開幕する。
本展は、絵画史上もっとも有名な少女ともいわれるルノワールの《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢》や、スイス国外に初めて貸し出されることになった4メートルを超えるモネ晩年の大作《睡蓮の池、緑の反映》といった傑作の数々が出品されるのに加え、約60点の出品作品のうち約半数が日本初公開となることでも話題を呼んでいる。
展示は、「肖像画」「ヨーロッパの都市」「19世紀のフランス絵画」「印象派の風景ーマネ、モネ、ピサロ、シスレー」「印象派の人物ードガとルノワール」「ポール・セザンヌ」「フィンセント・ファン・ゴッホ」「20世紀初頭のフランス絵画」「モダン・アート」の9章で構成。19世紀フランス絵画からスタートし、その後、ポスト印象派と呼ばれる画家たちの作品を核に形成されていったビュールレ・コレクションの全体像を見ることができる。
ギャラリートークに登場したE.G. ビュールレ・コレクション財団館長のルーカス・グルーアは、「ビュールレは1人の画家の生涯にわたる作品を集めることで、画家が自己を模索していた初期から、自分の表現の方法を見つけるまでの過程を見せようとしてきた」という。本展では、ポール・セザンヌとフィンセント・ファン・ゴッホにそれぞれ1つの章が当てられている。
セザンヌの作品の中でとくに注目したいのが、最高傑作とも称される《赤いチョッキの少年》。本作についてグルーアは、「ビュールレ本人は、セザンヌの3つの肖像画(《赤いチョッキの少年》と、その左右に展示されている《扇子を持つセザンヌ夫人の肖像》、《パレットを持つ自画像》)が自身のコレクションの中心であり誇りであると語っていた」と話す。
数十年にわたって試行錯誤を続けたセザンヌに対し、続くゴッホの展示室では、《日没を背に種まく人》(1888)を中心に、約10年という短い期間に生み出された傑作の数々が並ぶ。
展覧会の最後を飾るのは、クロード・モネの《睡蓮の池、緑の反映》(1920〜26)。本作は、ビュールレがパリ郊外のジヴェルニーにあるモネのアトリエに足を運び、自分の目で見て購入を決めた作品。これまでスイス国外から一度も出たことがなく、門外不出といわれた本作について、グルーアは「この展覧会が終わればしばらく日本では見られないだろう。皆さんに写真もたくさん撮ってほしい」と話した。
これまでスイス国外でコレクションがまとまって公開されたのは過去に数回のみ。さらに、コレクションを一般公開していた美術館(チューリッヒにあるビュールレの邸宅別棟)が2015年に閉館し、20年からはチューリッヒ美術館に管理が移ることが決定している。世界有数の個人コレクションであるビュールレ・コレクションをまとまったかたちで見ることのできる最後の機会、ぜひ会場で堪能してほしい。