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30人が選ぶ2025年の展覧会90:入澤聖明(愛知県陶磁美術館学芸員)

数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は入澤聖明(愛知県陶磁美術館学芸員)のテキストをお届けする。

文=入澤聖明

「フォルモサ∞アート−台湾の原住民藝術の現在」(国立民族学博物館)展示風景より 撮影=編集部

「草月コレクションによる 加藤清之展」(草月会館、7月25日〜26日)

加藤清之の器にいけられた、草月流第四代家元 勅使河原茜のいけばな 写真提供=一般財団法人草月会

 本展は今年1月に逝去した陶芸家・加藤清之(1931〜2025)の仕事を、草月流との長年の関係性のなかで再検証する追悼展。加藤の作歴において、花器の制作は大きな軸のひとつである。先々代家元・勅使河原蒼風にその傑出した才を見出されて以降、加藤は花を生けるための“うつわ”という機能的制約を起点に、造形としての陶の新たな可能性を探求してきた。本展では初期から晩年に至るまでの作品を通して、活動初期の絵画志向に由来する平面表現と、古陶磁への深い理解に裏打ちされた釉薬などの技法、そして鋭い造形感覚が交差する軌跡が示されていた。とりわけ、花が生けられることで作品が「受け皿」として再構築される点に、加藤のうつわに対する造形観が鮮やかに立ち上がっていた。

「宋元仏画−蒼海を越えたほとけたち」(京都国立博物館、9月20日~11月16日)

展示風景より 撮影=中村剛士

 本展は宋・元代の仏教絵画を中心に、その成立背景と東アジアにおける広がりを多角的に紹介するものであった。宋元仏画に加え、高麗における仏画や道教、マニ教といった仏教周縁の図像表現にも目が向けられ、仏画が多様な信仰と文化の交差のなかで形成されてきたことが示されていた。あわせて、仏教とともに舶来した陶磁器や漆器も紹介されており、絵画のみならず物質文化の側面からも交流の広がりが感じられる。展示の最後には梁楷や牧谿などが日本の中近世絵画へと受容されていく過程が示されていた点も印象的であった。また紹介資料の多くが寺院で長く伝来・保存されてきた点も重要であり、仏教信仰の実践と不可分の環境における保存の意義を、あらためて考えさせる内容となっていた。

「フォルモサ∞アート−台湾の原住民藝術の現在」(国立民族学博物館、9月18日~12月16日)

展示風景より 撮影=編集部

 本展は同館では比較的珍しく、現代アートの文脈から原住民族の表現に光を当てた展示であった。台湾では現在16の原住民族が政府に認定されており、1990年代以降、アートの領域で活動する作家が増えてきたという(*)。その多くは彼らが辿ってきた歴史や風習、神話に根ざした造形が、工芸的要素を伴いながら現代的な表現として展開されており、民族的帰属意識と工芸の関係性が印象的であった。なかには政治的枠組みと先住民の状況を顧みさせられる表現も見受けられた。また、常設展示では「難民と移民」をテーマとしたコーナーも併せて鑑賞でき、文化混淆や当事者の声を可視化する展示が、現在の日本社会とも響き合う内容として強い印象を残した。

 (*)──「台湾原住民藝術」『フォルモサ∞アート−台湾の原住民藝術の現在』リーフレット、2025年9月18日、国立民族学博物館、p.02

編集部