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30人が選ぶ2025年の展覧会90:小金沢智(キュレーター)

数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回はキュレーター、東北芸術工科大学准教授の小金沢智のテキストをお届けする。

文=小金沢智

スタン・アンダソン回顧展展示風景(朝陽堂) 写真提供=朝陽堂

大岡信展 言葉を生きる、言葉を生かす(神奈川近代文学館、3月20日~5月18日)

大岡信 書「森の谺を」 写真提供=神奈川近代文学館

 大岡信(1931〜2017)といえば、日本の戦後美術の同伴者=美術評論家であって、彼が詩人であり文芸評論家──しかも古典の詩歌を大きな土台とすることを、本展を訪れるまでまったく知らなかった。文学館が主催する本展は、しかし、文学に限らず美術の領域までも含んでその全貌を検証するもの。大岡が著書『うたげと孤心』(1978年)で書いている、優れた作品が生まれるためには、様々な分野の創作が同時に行われる「うたげ」の場、さらに作家の徹底的な「孤心」が必要だという主張は、ジャンル間の断絶、価値観の衝突ばかりが見えるいまの時代に必要とされる視座だと思う。以来、大岡信の著作をむさぼり読んでいる。

スタン・アンダソン回顧展(朝陽堂・LAGOM、9月11日〜10月17日)

スタン・アンダソン回顧展展示風景より(LAGOM) 写真提供=朝陽堂

 スタン・アンダソン(1947〜2015)は、アメリカ合衆国ユタ州出身の彫刻家で、日本では美術館の展覧会図録などの英訳も手がけた。本展は、2004年群馬県六合村に移住し、同県での中之条ビエンナーレに2011年から参加しながら、2015年の開催直前に亡くなった作家が残した作品を2会場で展覧するもの。文字通り土地・自然に根差して制作を行ったスタン・アンダソンの作品を見る得難い機会であり、しかもそれが、作家を直接は知らない主催者によって実現したことが素晴らしい。作家・作品が、土地とその場に生きる人々と強い結びつきを得ること、そして、それらと鑑賞者が、年月を経て出会うこと。どちらも、まったく簡単なことではないから。

ART in 鳳来寺山ろく「山が開く言葉」(旧門谷小学校、10月10日〜14日)

展示風景より 写真提供=鈴木孝幸

 作家の鈴木孝幸(1982年生まれ)が企画・運営し、出身地の愛知県鳳来町(現・新城市)の旧小学校を舞台に2014年から継続して開催しているアートプロジェクト(2024年のみ休み、今回が11回目)で、僕が訪れるのは3回目。出品作家はその都度違うが、今回は、過去参加経験のある大和由佳と鈴木との二人展として開催された(ファシリテーターに、山口貴子、山川愛)。新作が以前別の展覧会のためにつくられた作品とともに織りなす空間は、鈴木が、ひとつの場所で、他者と協働しながら、10年以上継続して土地(山)と美術について思索し、それを提示し続けることの途方もなさを想像させるものでもあった。あなたは、あなたが生きる場所で、何をしていますかと問われる思いがした。

編集部