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WORLD REPORT「クアラルンプール」:私的な記憶とコミュニティ。協働が生み出す新たな試み

雑誌『美術手帖』の「WORLD REPORT」では、世界の各都市のアートシーンや話題の展覧会をリポート。2023年4月号の「クアラルンプール」では、昨年のドクメンタ15を受けてアートの視点を東南アジア・マレーシアに移したアート・ジャーナリストの金井美樹が、「労働と重量 旅する展覧会展」展や「プロジェクト555 長引くパンデミックの小さな観察」展、そしてマレーシアにおけるクリエイティブなコミュニティの事例を取り上げる。

文=金井美樹

「労働と重量 旅する展覧会展」展で学生たちに作品解説をするリー・モック・イー Photo by Labour and Weight

私的な記憶とコミュニティ。協働が生み出す新たな試み

 インドネシアのアーティスト・コレクティブ、ルアンルパがアジアから初の芸術監督となり、新たなボキャブラリーやアートの実践が持ち込まれながらも、「反ユダヤ主義」騒動を筆頭として欧米のメディアでは評価が分かれ、批判も多かった昨年のドクメンタ15。ルアンルパの成し遂げた偉業に沸き立つ声こそあったようだが、私は全体的なムードをいまだ消化しきれずにいる。欧米の「アート」を誇示して他を受け入れない態度がいまなおあり、それが平然と一部の学者たちの口をつき、(アート)メディアに載ることにも驚いた。アーティストが目標のひとつとし、世界中の関係者が一目置いてきたドクメンタが、ひとつの時代の転換期を迎えたようにも感じられた。パンデミックの影響もあり、アート界はますますその中心を失っている。これまでベルリンを拠点にヨーロッパのアートシーンを取材してきたが、自らのアートへの視点にも変化を与えたく、東南アジア、マレーシアのアートの現場を探求してみようと考え、またそのチャンスを得た。アーツ前橋による海外在住アーティストの滞在制作事業で、ともに推薦委員を務めていたマレーシアのキュレーター、ヤップ・ソービンに教示を受け、現地のアートスペースやアーティスト、関係者らを訪ねた。

労働をテーマに展開する思考実験

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