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戸谷成雄のアトリエを訪ねて。「彫刻とは世界に対して完全に新たな存在として自立している」

アーティストは日頃どんな場で、どのように創造をしているのか。アトリエを訪ねて、その場で尋ねてみたい。あなたはどうしてこんなところで、そんなことをしているのですか?と。今回赴いたのは、日本の彫刻界における文字通りの「重鎮」、戸谷成雄さんの創造の現場だ。

文=山内宏泰

戸谷成雄 copyright the artist, courtesy of ShugoArts Photo by Shigeo Muto

「それでも、ついに彫刻とは何かわからぬまま」

 埼玉県の奥のほうへと、都心から車を走らせていく。さほど時間を経ずとも、ずいぶん深い森へ分け入った感が漂ってくる。そんな秩父の山あいに、戸谷成雄さんの仕事場はある。

 木々を払った一角に、倉庫風の大きい建築がひとつ。シャッターはあるものの外部と地続きの一階は作業場だ。近くに人家はないので、戸谷さんがよく制作に用いるチェーンソーを存分に振るっても、音量や振動を気にせず済む。

 二階は書棚や机があり、静かにスケッチや書きもののできるスペース。一階部分は奥が広い格納庫となっており、過去作が所狭しと置かれ保管されている。そこはひんやりしているのに、どこかから温もりも漂い出ている。大半は木彫だから、素材の木がいまだ息づいているのかもしれない。

戸谷成雄のアトリエより copyright the artist, courtesy of ShugoArts Photo by Shigeo Muto
戸谷成雄のアトリエより copyright the artist, courtesy of ShugoArts Photo by Shigeo Muto

 外界の森とは別の深い森が、このアトリエの内部に存在しているみたいだ。深い思念のなかからかたちを掘り起こしてくるような戸谷作品は、この環境があればこそ生まれてくるものだろうと納得する。

 二階の作業机の前に座る戸谷さんと向かい合う。広い空間の隅々まで声がよく届く。

 「まあここでこうして、ひとり静かに彫刻に打ち込んでいるわけです。とくに大学で教えるのを辞めてからは(2018年に武蔵野美術大学を退任)、ほとんどの時間を籠もって過ごしていますね」。

 せっかくここで声を聴けるのなら、根源のことについてがいい。そんな気がした。というのも戸谷さんはつねづね、彫刻とは何か。それをみずからに問いながら創作をしてきたから。

 誰しも知る通り、世界はすでに完結したかたちで存在しているのに、彫刻家はわざわざそこに、ボリュームと実体を持った彫刻を付け加えようとする。いったい何をしているのか。なぜそんな働きかけをするのか。そう疑問を胸に抱きながら、戸谷さんは制作を続けてきたのだ。

戸谷成雄 視線体ー散 2019 木、灰、アクリル サイズ可変 copyright the artist, courtesy of ShugoArts Photo by Shigeo Muto

 「それでも、ついに彫刻とは何かわからぬままですがね。四六時中そんな難しいことばかり考えているわけでもないし。ただ、考えてきたことの一端くらいは話してみましょうか」。

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