京都伝統産業ミュージアム(https://www.tiktok.com/@kyoto_mocad)は、1977年に開館した京都の伝統産業やその背景を紹介するミュージアム。京都市が定めた伝統産業品は、染織品から諸工芸品、食品も含め全74品目。これらを実際に触って体験できるコーナーや、職人の実演、ワークショップの開催など、京都の伝統産業を多方面から深く知るための企画が充実している。
「GoToアート」におけるTikTok LIVEは、これまで美術館やギャラリースタッフだけで進行することが多かったが、今回のLIVE配信では、TikTokで活動する人気クリエイターがゲストやスタッフとして参加。軽妙なトークを随所に織り込むことで、多くのユーザーが視聴し、積極的にコメントを寄せていた。
今回のLIVE配信は2名のホストによる2部構成。前半は京都市産業観光局クリエイティブ産業振興室の今堀加奈がホストを務め、TikTokクリエイターのぴーたー&ほーみんをゲストに迎えて進行した。
ぴーたー&ほーみんは、英語が堪能のほーみんと、英語が若干苦手なぴーたーの二人組。TikTokでは、楽しく学べる英会話コントが好評で、現在は約30万人ものフォロワーを集めている。
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♬ オリジナル楽曲 - ぴーたー&ほーみん🧸🍯
全編を通して、裏方のスタッフもTikTokクリエイターが務めている。進行台本の制作や演出を行う総監督を務めるのは、オリジナルの映画感想をコンパクトにまとめた投稿で人気のしんのすけ(https://www.tiktok.com/@deadnosuke)。また、技術ディレクターは、スマホで美しい写真を撮るテクニックを披露しているショウマ(https://www.tiktok.com/@syouma0724) が担当。テンポよく、ユーザーを交えたクイズを取り入れた構成や、画面を2つに分割して配信するなど、随所に新しい試みを見ることができた。
クイズの問題は、実際のミュージアム展示品を用い、その用途を問うもの。伝統工芸の技法を取り入れつつ、洗練されたデザインの商品は一見では何に使うかわからないものばかり。伝統産業品になじみのない回答者のぴーたーだけでなく、視聴するユーザーたちも興味を示し、積極的にコメント欄を利用して解答、盛り上がりを見せた。また、ときおりほーみんが解説やクイズのヒントを英語で伝えるなど、より多くの人々に伝統産業の魅力を届ける工夫も施されていた。
ホストを務めた今堀は、伝統産業ミュージアムがTikTokに参画した理由を「伝統産業品が日常使いされていない高価で古い品物だというイメージを払拭し、手仕事でつくられた作品の本来の魅力を知ってもらうきっかけになれば」と語る。今回のLIVE配信は、そのきっかけにつながったようだ。
LIVEの後半は、京都伝統産業ミュージアムの大江將仁が今堀に代わりホストとして登場。企画展示や工房への制作体験のツアー担当する大江が出題するクイズは難易度が急上昇。
京都市指定の伝統産業のなかに食品が含まれていることや、現在、ミュージアムで購入できる伝統産業品のなかで一番高価なものは、創作柚ノ木型灯籠と呼ばれる石灯籠(286万円)であることなど、伝統産業について、より詳しく、マニアックな情報を提供していく。
また、ミュージアムショップで購入できる手頃な価格帯の雑貨も紹介。木版画製のブックカバーやポチ袋、しおりなどは、コメント欄でも「ほしい」とコメントするユーザーが多く見られた。
また、8月29日まで開催中の企画展「スペース・マウンティング」も内容を紹介。表具師の井上雅博が、アートやデザイン、マンガなど様々なジャンルを横断・コラボレーションした現代の表具を展示するもの。「表具の平面というイメージを覆す展示で驚いた。空間そのものが表装されている感じは実際に見に行かないとわからない」とほーみんに、興味を喚起されたユーザーも多かったようで、ぜひ見に行きたいというコメントも多く寄せられていた。
約40分間のTikTok LIVEは、大好評のうちに終了。約1万5000人のユーザーがこの配信を楽しんでいた。
後半のホストを務めた大江は配信後、「京都伝統産業ミュージアムは2020年3月にリニューアルしました。若い年代にミュージアムの魅力を伝えたいと思い、SNSで発信を行っています。工芸は暮らしのなかにあるものなので、動画で伝えることが効果的だと考えてTikTokを活用しました。LIVE配信では、普段、ミュージアムや伝統産業の魅力を届けられない方々とリアルタイムで交流することができ、非常に嬉しく思います」と手応えを感じるコメントを寄せた。
また、制作に関わったTikTokクリエイターも、これまでにない企画に刺激を受けたようだ。「見た目は古風ながら、現代の私達に合わせたものが多く、一つひとつの展示品に撮影中も驚きを感じることが多かったです。いままでに触れてこなかったものも多く、おもしろみがあり興味がわきました。今後も、撮影を通して改めて伝統産業品とかかわっていきたいと感じています」と語る技術担当のショウマは、伝統産業品との出会いに強い衝撃を受けたようだ。
総監督を務めたしんのすけは、「伝統文化・産業とデジタルの距離感は年々近付いていると実感していますが、もっと歩み寄れるはず。今回、この距離を埋めることを念頭に置きました。どうしても固くなりがちな伝統産業を、いかに気取らず伝えることができるか。今回のTikTok LIVEのように、様々なチャレンジをこれからも続けていく必要を感じています」と、伝統文化・産業とデジタルの関係について思いを寄せた。
そして、ゲストとして出演したほーみんとぴーたーは「職人が受け継いできた匠の技が、現代アーティストや最先端の技術とコラボレーションすることで、非常に“Cool”に仕上がっていることに、伝統産業品の大きな可能性を感じています。日本だけでなく海外にもこの“Cool”を広められるよう、今後も携わっていきたいと感じる取り組みでした」と今回の取り組みに非常に刺激を受けた様子を見せた。
伝統産業品は、昔ながらの伝統をただ受け継いでいるものではなく、「いま」の暮らしに寄り添い、現在に生きる人のために作られているもの。その魅力を伝えるためには、「いま」を思い切り楽しんでいるユーザーの多いTikTokでの発信は非常に有効だ。ユーザーからのコメントも「ほしい」「いくらくらいするのだろう?」と、伝統産業品を身近に感じていることがうかがえる言葉が多く見られていた。
TikTokの人気クリエイターの発信力や表現手法を活用したTikTok LIVE。クリエイターと連携する今回の試みは、他の美術館においても活用ができそうだ。