寺田倉庫は1950年に創業、その名の通りストレージサービスを基幹事業としている倉庫業者だ。そのいっぽう、美術品保管サービスからスタートしたアート事業で現在大躍進していることでも知られている。美術品修復や美術品の輸送・配送、展示といった業務も手掛けているほか、現在は拠点である天王州にミュージアムや芸術品の修復工房などの施設も運営、アートによる街づくりも積極的に試みている。
これらのアートに関する取り組みを発信するために、寺田倉庫が運営する芸術文化発信施設「WHAT」「PIGMENT TOKYO」「WHAT CAFE」の3施設が中心となりTikTokのアカウントを開設したことは、PIGMENT TOKYOからのTikTok LIVEのレポートでも紹介している。
去る5月30日、寺田倉庫が運営するミュージアム「WHAT」はTikTok LIVEを配信。新型コロナウイルス対策のための緊急事態宣言により、会期半ばで休館してしまった「-Inside the Collector’s Vault, vol.1-解き放たれたコレクション」展と建築倉庫企画「謳う建築」展を、企画担当者の解説付きで紹介した。その模様をダイジェストで紹介しよう
「-Inside the Collector’s Vault, vol.1-解き放たれたコレクション」展
WHATは、コレクターや建築家が所有する現代美術作品・建築模型を、寺田倉庫が預かり、保管しつつ、公開する「倉庫を開放、普段見られないアートを覗き見する」 というユニークなコンセプトのミュージアム。文化庁および観光庁を主体とした 「文化観光推進法」 に基づいた文化観光拠点施設として、民間企業初の計画認定も受けている。
「-Inside the Collector’s Vault, vol.1-解き放たれたコレクション」展は、現代美術の2名のコレクター、精神科医の高橋龍太郎と上場企業の代表を務める「A氏」のコレクション、約70点を紹介する展覧会。TikTok LIVEでは、高橋のコレクションを中心に展覧会を紹介した。
高橋は1997年より現代美術のコレクションを本格に開始、現在2000点以上の作品を所有。国内外21館の美術館などで高橋コレクション展が開催されている。本展で高橋は展示テーマを「描き初め」と設定。これまで展示されなかった若い作家たちや、先行する作家たちの新しい展開に焦点を当て作品を選定している。
まず紹介するのは、女性作家の作品を展示する1階スペースの作品。食や身体をテーマに多様なメディアで作品を展開する川内理香子の油彩作品は、淡い色調のなかに人の脳や葉、動物などが刻まれている。食と身体、神話の世界が融合した人間の原風景が表現されている。
ラッカースプレーなどを用いた土取郁香の作品《I and You (knock knock knock)》は、高橋が土取に発注して制作がなされた、本展が初公開となる新作。直接作家とコレクターがやりとりできるのは、現代美術というフィールドならではのことだ。
続いてカメラは2階の大型展示室へ移動。野澤聖《Obsession―蒐集家の肖像―》のインスタレーションに描かれている肖像画はコレクター・高橋龍太郎本人。制作に1年以上の期間がかけられたという。解説者は「発注者と製作者がコミュニケーションを取りながら制作する作品を『コミッションワーク』と言います」と、芸術分野のTikTok LIVEを初めて見るユーザに向け、美術に関する用語や仕組みの解説も加えていた。
続く部屋では、岡﨑乾二郎と会田誠の作品のタイトルの長さや意味に着目。「作品を観賞するときは、作品タイトルも注目です」とのアドバイスも。
このほかにも、BIENやDIEGO、大山エンリコイサムなどストリートアートやグラフィティアートに強い影響を受けた作家作品や、コンピュータゲームに影響を受けた梅沢和木、地下鉄の駅の雨漏りにインスピレーションを受けた毛利悠子らの作品も紹介。コレクターの興味・関心の広さも感じられる展示解説となった。
「謳う建築」
続いて紹介する展覧会は「謳う建築」。建築家が手掛けた住宅を詩人や劇作家らが訪ね、その住宅をインスピレーションの源として作品を書き下ろして展示する、15名の建築家と15名の作家によるコラボレーション展だ。
寺田倉庫は、建築家や設計事務所から500作品以上の模型を預かり、保管・展示を行う「建築倉庫ミュージアム」を2016年にオープン、これまでに様々な展覧会を開催してきた。建築倉庫ミュージアムの理念はWHATに継承され、WHAT内「建築倉庫プロジェクト」として、新しい展示企画を行っている。本展もそのプロジェクトの一貫だ。
展示室では、描き下ろした詩と建築模型や図面資料、撮り下ろした映像を併せて展示する。
プロローグとして展示されているのは、立原道造の詩と建築模型。早世した詩人として知られる立原道造は、建築家としても活動を行っていた。
立原道造は1933年に東京帝国大学工学部建築学科に入学。在学中に辰野賞を3度受賞する有望な学生だった。《ヒヤシンスハウス》は、自らのために設計した5坪ほどの小さな週末用の住宅だ。
この模型の背後に刻まれているのは同じく立原道造の《小譚詩》。建築と文芸の双方から立原道造の姿をあぶり出しているようだ。
プロローグに続き展示されるのは、建築家と詩人らのコレボレーション。建築を発想源に生み出される言葉は、様々なスタイルで表現されている。
建築家・高野保光の設計した「縦露地の家」は、2012年に竣工した都内の住宅。詩人の高貝弘也は、この家を訪れ、その印象を短い詩をいくつも重ねて、ひとつの作品をつくり上げた。
この詩の向かい側に高野保光のスケッチが展示されており、鑑賞者は交互に言葉と建築を眺めることができる。
建築家・能作文徳と常山未央の自邸である「西大井のあな」 は、バブル期に建てられた4階建ての家を建築家が居住をしながらリノベーションを加えている住宅。
この住宅を、劇作家・長塚圭史が訪れ、新しい戯曲をつくった。この戯曲は今年の秋に、舞台で上演される予定だという。
そのほか、建築家の篠原一男は、詩人の谷川俊太郎の一遍の詩をモチーフに、1974年、北軽井沢に「谷川さんの住宅」をつくり上げた。谷川はかつて暮らしていたこの建物を題材に、その住まいを振り返り谷川は新しい詩を詠んだ。言葉と建築が往復を繰り返すという新しい試みだ。
2つの展覧会を続けて紹介するTikTok LIVEの90分のライブでは、ミュージアムの場所や、展示内容の質問なども数多く寄せられていた。今回、寺田倉庫では、LIVE中にコメントに返信する専任スタッフを配置。ユーザから届いた質問に速やかに返信する体制も整っていた。
TikTokの特長として、アカウントをフォローしなくても、ユーザーの嗜好に合わせて興味のありそうな動画が自動的に「おすすめ」フィードに表示される。既存の美術館訪問者とは異なるファン層を取り込むことも期待できる。今後、他の美術館やギャラリーにも伝播することが期待される。
今後、@TERRADA ART PROJECTはTikTokを通して「おうちで楽しめるアート」を実現していくこと、またアート業界の新たな発信の場としての可能性を追求する。