また女性作家を展示する際のもうひとつの工夫として、本展ではできるだけ作家解説を付している。ともに展覧会を担当した橋本こずえ学芸員と分担し、総勢50名を超える作家の解説を書いた。本展で筆者が危惧したのは「女性作家」をまとめて展示することで、新たな「女性らしさ」の再生産が行われてしまうことであった。しかし個別の作家を調べ見てみれば、それぞれの作家はまったく異なる道をたどり各々の表現にたどり着いており、前述のように選ばれた作品を「らしさ」で括ることは到底不可能であった。作家を調べるなかで得られたこうした感触を鑑賞者とも共有するために、とにかく多く作家解説を書くことを心がけた。ゆえに、本展における解説は、それらをすべて読まなければならないという類のものではない。ただ、こんな作家がいたのか、もっと知りたいというときに、しばしばモノグラフも個展も多く残されていない作家のことを知るためのきっかけを、できるだけ多く残しておきたかったのだ。明治の洋画黎明期の先駆的作家である神中糸子さえも、個展の図録は1979年の1冊しか見当たらないこの状況において。