コレクターとしてお気に入りのアーティストを支援したい──そういった気持ちは、多くのコレクターが持っています。ですが、実際はその作家の作品を買うだけにとどまることが多いもの。今回お宅を訪問させてもらった佐野仁美さんは、作家の作品集を出すためのクラウドファンディングを企画するなどの全面的な支援を行い、その結果作家が有名になり、海外でも認められるようになったという経験を持つコレクターです。「地下アイドルを育てていたら全国区になっちゃったみたいな、不思議な感じです」と笑う、そんな佐野さんのコレクションをのぞいてきました。
コレクションを始めた当時は情報がなかった
佐野さんのコレクター歴は11年。「コレクションを始めたころは、まわりにコレクターがほとんどおらず、情報がとにかく手に入りづらかったです。当時からSNSは見ていましたが、Twitterで少し情報が入るくらいで、情報量は多くありませんでした」。
また、当時のギャラリーはいまほどオープンではなく、スタッフの方に声をかけるのも躊躇するくらいだったとか。ただ、小山登美夫ギャラリーは印象が違ったそうです。「小山登美夫ギャラリーはウェルカムな雰囲気がありました。私の初期の購入が小山さんのギャラリーだったのは、その親しみやすさが理由としてあったと思います」。敷居が高いと思いながらも多くのギャラリーにも足を運び、そのなかで少しずつ人脈をつくり、オークションも見に行くなどして、自分なりに情報を入手していったそうです。
「情報を集めるのは、本当に大変でした(笑)。ですが、当時、田口美和さん(*現在、タグチ・アートコレクションを運営)がコレクション活動に関わり始めたばかりだったんです。知人の紹介で彼女と知り合って、色々話を聞いたりしました。といっても、彼女自身もまだアートを見始めたばかりのころだったので、お互いに情報交換をしていましたね」。
ファーストピースは筑波大学の先輩である山田実穂のカバの版画です。「彼女は芸術学部、私は医学部だったのですが、展示を見に行ったときにすっかり魅了されてしまって、社会人になってから購入しました」。
コレクション当初は、日本人の若手作家の作品を購入。「初期は価格的に手を出しやすいという面で若手作家の作品を購入していました。具体的には大庭大介さん、仲良くさせていただいている伊藤彩さんの作品を買っていましたね。その後、買っていくうちに価格の感覚が麻痺してきて、若手作家に限らず、購入するようになりました。恐ろしい(笑)」と佐野さんは語ります。