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横尾忠則の「Y字路」に迫る。「横尾忠則 ワーイ!★Y字路」が横尾忠則現代美術館で開幕

神戸市の横尾忠則現代美術館で「横尾忠則 ワーイ!★Y字路」がスタートした。数ある横尾作品のなかでも人気が高いシリーズのひとつである「Y字路」に特化した展覧会だ。会期は5月6日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、《暗夜光路 N市-Ⅰ》(2000)

 横尾忠則の多彩な作品による企画展を行う神戸の横尾忠則現代美術館で、「横尾忠則 ワーイ!★Y字路」がスタートした。会期は5月6日まで。担当学芸員は山本淳夫(同館館長補佐兼学芸課長)。

展示風景より

 本展は、2006~2015年のY字路シリーズを展覧した2015年開催の「横尾忠則 続・Y字路」展を補完するもので、シリーズの原点である初期作品(2000~2005年)、および新近作(2016年~)の計69点で構成(シリーズ全体の制作数は約150点)。多彩な「Y字路」シリーズの発展と魅力に迫ろうとするものだ(展覧会タイトルは横尾自身によって名付けられた)。

 Y字路シリーズが生まれたのは2000年のこと。同年、西脇市岡之山美術館(兵庫)で開催された「横尾忠則西脇・記憶の光景展」ために横尾は西脇市に滞在し、12日間で17点の新作を制作した。当時の横尾は都会にはない闇夜に関心を寄せており、夜間に繰り返し街に取材に出かけていたという。そこで目に止まった、かつての通学路にあった模型店跡地をインスタントカメラで撮影し現像して現れたのがY字路だった。中央の建物がストロボによって白飛びし、左右に別れた道が闇へと溶け込む写真。そこからインスピレーションを得て制作された「暗夜光路 N市」がシリーズの始まりだ。これらは写実的に描かれており、横尾作品のなかでも珍しいものだという。会場冒頭では同じシリーズから5つの作品が並ぶが、これらが揃うのは同館でも初めてだという。

展示風景より、「暗夜航路 N市」シリーズ
展示風景より、「暗夜航路 N市」シリーズ

 こうした暗いトーンのY字路から一転し、カラフルな作品群も並ぶ。横尾は2002年より東京都現代美術館と広島市現代美術館で開催された「横尾忠則 森羅万象」展のために、17点の新作Y字路を制作。色彩にあふれたもY字路が生み出された。

 なぜこのような変化が起きたのか。その一因は、制作資料として用いられた写真の違いがある。初期作品では横尾自らが夜間にストロボ撮影を行っており、モチーフも西脇や世田谷の自宅周辺など自身と距離の近いものに限られ、素直な再現描写が基本だった。しかし02年の作品群で横尾は他者が撮影した写真を積極的に活用しており、結果的にモチーフとの距離感が遠くなることで、より自由な展開へとつながっていったという。

展示風景より
展示風景より
展示風景より、中央は《私への疑問》(2002)

 Y字路は公開制作の対象でもあった。「宮崎の夜」と題された作品は、04年に宮崎県立美術館で開催された「横尾忠則 Y字路展」の際に公開制作されたもので、公開でY字路が描かれた最初の例。台風の接近で宮崎から帰京できなくなり時間的余裕が生まれた末に描かれたもので、公開制作という限られた時間での制作でありながら、描写が丹念で均整が取れているのが特徴だという。

 またY字路は写真を見ながら描くこと、最初の手順がほぼパターン化している(左右に分かれた道路奥の消失点をまず決定する)ことなどから、公開制作しやすいモチーフとして取り上げられてきたという。

展示風景より、右が《宮崎の夜 - 台風前夜》(2004)

 本展最後を飾るのは、16年以降の比較的新しいY字路だ。例えば《At Box Roots》は、16年に箱根彫刻の森美術館で開催された「横尾忠則 迷画感応術」展のために描き下ろされた作品で、タイトルは「箱根にて」を英単語に直訳風に置き換えたもの。箱根のY字路風景の中に、ジャン・デュビュッフェ、アントニー・ゴームリー、イヴ・クライン、三木富雄、フェルナン・レジェ、イゴール・ミトライといった彫刻の森美術館のコレクションやピカソ館が描き込まれている。

 また18〜19年に描かれた《回転する家》《Last B29》《ギルガメッシュとMP》は、いずれも初期作《暗夜光路 N市-I》と同じ西脇市内の椿坂がモチーフとなっているが、必ず上空にB29 爆撃機が描かれており、戦争の記憶が反映されているのが特徴だ。また描き方が最新シリーズである「寒山拾得」につながるような朦朧体となっていることにも注目してほしい。

展示風景より、左から《ギルガメッシュとMP》(2019)、《回転する家》(2018)、《Last B29》(2019)

 横尾は本展開催にあわせ、次のようなメッセージを報道陣に寄せている。

Y字路は、われわれの生活の中でも常にこのY字路に突き当たって、こっちにするかあっちにするかと迷う、そんな経験は誰にもあります。一日に我々は何度もY字路に遭遇します。昼の食事は、ラーメンにするか? カレーにするか? 誰かに電話するかどうか、こんな具合に終日、Y字路の前に立ちすくむのです。
多分、この展覧会を見られた次の日から、Y字路が気になって仕方ないとおっしゃる方が何人も現れてくると思います。
我々の人生は、常に右に行くか、左に行くかの迷いから生じています。まあ、そんなことを念頭において、Y字路展をゆっくり鑑賞してください。(一部抜粋)

 なお、本展会場は展示壁の立て方も特徴的だ。垂直ではなく15度の角度をつけた展示壁を立てることで、Y字路のような世界観が展示室にも表現されている。

展示風景より
展示風景より

編集部

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