福岡県の福岡市美術館で特別展「日本の巨大ロボット群像-巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-」がスタートした。監修は山口洋三(福岡アジア美術館)、ゲストキュレーターは廣田恵介、五十嵐浩司(株式会社タルカス)。会期は11月12日まで。
日本で初めての巨大ロボットアニメである『鉄人28号』放映から60年を経て開催される本展。会場は全8章で構成され、日本のアニメーションにおける巨大ロボットのデザインとその映像表現の歴史をたどることで、「巨大ロボットとは何か」を問うものとなっている。
第1章では、2009年に東京・台場に設置されたガンダム立像など、現在日本各地で再現されているロボットの存在に着目し、映像などで紹介。第2章では、巨大ロボットの元祖である『鉄人28号』の変遷を追うものとなっている。初のテレビアニメとして知られる『鉄腕アトム』や、『鉄人28号』が放送された1963年。とくに『鉄人28号』は、その後の70年代に黄金期を迎える日本の「巨大ロボットアニメ」文化の発端となっている。
第3章では、そんな70年代に放映された子供向けロボットアニメの数々から、『マジンガーZ』(1972〜74)、『ゲッターロボ』(1974〜75)、『鋼鉄ジーグ』(1975〜76)、『勇者ライディーン』(1975〜76)、『超電磁ロボ コン・バトラーV」(1976〜77)の5作品をピックアップ。各作品の巨大ロボットや世界観の設定資料を見ることができる。また、本展のために制作されたメカニックデザイナー・宮武一貴(スタジオぬえ)による巨大絵画は必見だ。
第4章、第5章では、巨大ロボットのみならず、リアルな人間ドラマを描いた『機動戦士ガンダム』、そしてガンダム以降の作品を中心に取り上げている。その巨大ロボットは、悪を倒す存在ではなく、人が戦争で使用するための通常兵器(モビルスーツ)として登場し、10代以上の視聴者やSFファンの支持を得ていった。4章ではとくにガンダムにおけるモビルスーツのデザインや、その大きさに着目している。とくに驚かされるのは、18メートルにおよぶガンダムの姿を再現した展示室だろう。
続く5章でも、様々な作品に登場する巨大ロボットの「大きさ」に焦点を当て、自身と対比することで「体感型」の鑑賞ができるようになっている。
6章では、描かれてきた巨大ロボットの「内部図解」に注目されている。これはロボットにリアリティを与えるとともに、玩具などその後の製品化に役立てられた。徐々にロボットデザインが極まり、内部構造が複雑になっていく過程も見て取れるだろう。
黄金期を越えた80年代以降、巨大ロボットアニメは様々なアイデアが出し尽くされ、飽和状態となっていった。7章では、そんなロボットデザインが80年代半ばから90年代には、70年代に見られたスーパーロボットの様相へと回帰していく様子を俯瞰的に紹介している。その「荒唐無稽」とも言えるデザインと、作品独自の世界観は、巨大ロボットアニメの新たな潮流であったと言えるかもしれない。
本展の最終章では、これらの「巨大ロボット」に魅了されてきた6名のインタビューが公開されている。このような創造の現場に携わってきた識者らによる「自分にとって巨大ロボットとは何だったのか」という問いは、来場者が本展をより深く鑑賞するための手助けとなってくれるだろう。
最後に、本展では残念なことに、ゲストキュレーターのひとりであった廣田が開幕を目の前に急逝している。そのようななか、もうひとりのゲストキュレーターとして参加した五十嵐は、次のように本展への想いを語った。「巨大ロボットとは何か。それを体感するのが重要となる展覧会だ。現在ロボットは、マンガやアニメ、特撮などでも取り上げられるテーマであるが、その発端である『鉄人28号』に主に焦点を当てている。本来ここにだって話すのは、急逝された廣田氏であるはずだった。開催には、彼の尽力があったことも思いながら、本展を体感してほしい」。