昨年3月にリニューアル開館を迎えた東京・六本木の泉屋博古館東京。そのリニューアルオープン記念展シリーズの最後を飾る展覧会「不変/普遍の造形—住友コレクション中国青銅器名品選―」が開幕した。会期は2月26日まで。担当学芸員は山本堯。
本展の主題となるのは、住友コレクションの代名詞であり世界屈指の呼び声高い中国青銅器の数々だ。これらは住友家の第15代当主・住友吉左衞門友純(号・春翠)が煎茶の床飾りのために購入したのが始まりで、そこから体系的なコレクションが築かれていった。野地耕一郎館長は、この体系的なコレクションが住友コレクションの特徴だとしており、「これほど粒揃いのものはなかなかない」と自信を覗かせる。
そもそも中国青銅器とは、いまから約3000年前(日本では縄文時代が終わりにさしかかった頃)の殷や周といった古代王朝において発達したもの。中国青銅器文化の最大の特徴は、神々をもてなすための特別な器であり、造形と機能性が両立している点にあるという。
専門家でない限り、難解なイメージを抱きがちな中国青銅器。なかには私たちの日常生活では使われることがない難読漢字も出てくる。例えば「鼎」は「かなえ/てい」と読み、肉入りスープを煮る器を意味する。あるいは「兕觥」は「じこう」と読み、兕は牛の姿の化け物を、觥はその角でつくった器を指し、酒や水を注ぐために使われた。本展1章では、食器、酒器、水器、楽器の数々を通じて、こうした名前の由来や意味が解説されている。
なかでも見ものは、《虎卣(こゆう)》だ。厚さ2ミリで鋳造された器で、後足で立ち上がった虎が大きく口を開け、人を丸呑みしようとする様子が、超絶技巧によって表現されている。
意味を理解した後は、中国青銅器最大の特徴である文様に挑戦してみよう。文様のなかでもよく目にするのが、「饕餮(とうてつ)」ではないだろうか。これは伝説上の貪欲な怪獣の名前だ。なお青銅器にあらわされた獣の顔面文様を饕餮文と名づけたのは宋代のことで、殷周時代当時の人々がこの文様をどのように呼び、どのような意味を与えていたのかは不明な点が多いのだという。
この饕餮に代表されるような、器の表面を埋め尽くす繊細かつ複雑な造形。そこには、人間にとって危険であるがゆえに聖性(邪を払う聖なる存在)を帯びている、という「二面性」もあるという。
また文様には、様々な動物のパーツを組み合わせて、この世にはないような文様をつくりあげる「キメラ」の性質もある。ミステリアスな中国古代のイマジネーションの世界がそこには広がっているのだ。薄い表面に鋳込まれた超絶技巧に注目だ。
青銅器には当然、文字も鋳込まれている。その文字は「金文(きんぶん)」と呼ばれ、漢字の祖先にあたるもの。その内容は様々であり、当時の社会の価値観や歴史的事件を記す貴重な史料だ。本展では、会場に釈文・現代語訳が表記されているので、その意味(メッセージ)を読み解くことができる。
なお今回は、展覧会にあわせて3Dデータを用いたデジタルコンテンツが制作され、会場でも展示。担当学芸員の山本は、「青銅器に距離を感じるのはもったいない。いろんな切り口で楽しめるもので、初めて知る方にもわかりやすくその魅力を伝えられたら」と語っている。
奥深くもキャッチーな部分もある中国青銅器の世界。これを機に、その深淵を覗いてみてはいかがだろうか。