今年3月19日、住友コレクションを収蔵する公益財団法人泉屋博古館が「泉屋博古館東京」を新たに開館させる。この開館を前に、建物内部が報道陣に公開された(記事内の展示内容は1月4〜6日の特別公開)。
泉屋博古館東京は、2002年に京都の分館「泉屋博古館分館」として六本木一丁目の住友家旧麻布別邸跡地に開館したもので、18年にわたり、館蔵作品の紹介を続けてきた。19年末に改修工事のために長期休館に入り、約2年の歳月をかけてまったく新しい美術館へと生まれ変わった。
まずは外観の変化から見ていきたい。エントランスはその幅を広げるとともに庇(ひさし)を短くすることで明るく、入りやすいデザインへと変更。入り口と館内をつなぐ風除室を広く取り、展示空間の環境改善も図っている。また、大きなガラスを外観に用いることで、周囲にある泉ガーデンの緑地との一体感も強調された。
来館者を迎えるエントランスホールも真新しくなった。入館受付・館内案内専用カウンターが設置され、キャッシュレス決済にも対応するなど、機能面でのアップデートが嬉しい。
各展示室をつなぐホールは美術鑑賞の入り口となるもので、正面中心部に新たにガラスケースを設置。壁面には時間や歴史の蓄積をイメージした版築仕上げとなっている。
もっとも注目すべきは展示室の変化だろう。既存の展示室はすべて改修され、空調設備と照明機器、ケースが最新のものになった。
照明についてはLEDで自然光に近い光を再現し、2700ケルビンから5000ケルビンの色温度がシームレスで調整可能に。明度と彩度を抑えることで、作品の色彩が前景化するように設計されている。ケースについても映り込みが最小限に抑えられており、快適な鑑賞体験が可能だ。
また天井や壁面、カーペットもすべて変更。光が飽和しない深いグレーになっており、落ち着いた空間が演出されている。
展示室は改修のみならず、新たに2つの部屋が誕生した。「第2展示室」は、第1展示室と第3展示室をつなぐような細長い展示室。元事務室を改修した「第4展示室」は、1917年にこの地に住友家別邸として建てられた「麻布別邸」の記憶を継承し、他の展示室とは異なる意匠が施されている。これらの新設によって、延床面積は1363平米から1740平米へと拡張している。
美術館での楽しみとして欠かせないミュージアムショップもエントランス脇に新たに設置。16種44品のオリジナルグッズなど、展示を見たあとにショッピングを楽しみたい。
ミュージアムカフェとしては昨年10月1日にいち早くオープンしている「HARIO CAFE」がある。ガラス製品メーカーのHARIOが直営するこのカフェでは、HARIOの器具で淹れた本格的なコーヒーが楽しめるのも嬉しい。
このほか、イベントや教育普及にも使用できる99平米の講堂が新設。今後は様々なラーニングプログラムも実施予定だという。
泉屋博古館東京館長の野地耕一郎はリニューアルに際し、「生活のサイクルの中に当館を入れてもらえるとありがたい。そのために親しみやすい展示内容を提示することも狙っていく」と語る。
3月19日からはリニューアルオープン記念展第1弾として日本画コレクションの全貌を展観する「日本画トライアングル」を5月8日まで開催。その後はリニューアルオープン記念展第2弾「光陰礼賛─モネからはじまる住友洋画コレクション」(5月21日〜7月31日)、リニューアルオープン記念展第3弾「古美術逍遥─東洋へのまなざし」(9月10日〜10月23日)、そして特別展として「生誕150年 板谷波山展」(11月3日〜12月18日)がラインナップされている。六本木の好立地で、生まれ変わった泉屋博古館東京を存分に楽しみたい。