パリの路上に立つ娼婦たちをとらえた作品で1970年代にデビューし、現在も精力的に活動している写真家、ジェーン・エヴリン・アトウッド。その日本初となる個展「Soul」が、東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで始まった。
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ジェーン・エヴリン・アトウッドは1947年ニューヨーク生まれ。学生時代にダイアン・アーバスの展覧会で社会の周縁にいる人たちのポートレイトを見たことがきっかけとなり、71年からパリを拠点に作品を生み出してきた。
76年には初めてのシリーズ作品として、パリの路上に立つ娼婦たちの姿を撮影し始める。その後、80年には娼婦たちの写真と、当時撮影を始めたばかりだった盲目の子供のシリーズが評価され、第1回ユージンスミス賞を受賞。その後もエイズ患者の密着取材や10年間におよぶ女囚たちの撮影、4年間を費やした地雷犠牲者の調査など、長期間をかけて複数のプロジェクトに取り組んできた。報道カメラマンとしても活動しており、1995年の阪神淡路大震災、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ、2004年のアメリカ民主党全国大会なども取材している。
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日本で初めての個展となる本展では、デビュー作となった70年代の娼婦のシリーズをはじめ、76年から2014年にいたるまでの代表的作品の数々が並ぶ。会場は作家の希望によりシリーズ別や年代順といった展示構成となっていないが、被写体のジェスチャーや表情、イメージの中の光と影などから、展示の流れ・つながりを感じることができる。
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コロナ禍のなか来日したジェーン・エヴリン・アトウッド。過酷な現実を写し取ってきたそのモチベーションは何かと問うと、「Curiousity(好奇心)」だと即答した。「私はこの人たち(被写体)のすべてが知りたいのです。その背景さえも。その答えを求めるために写真を撮っています。だから長い時間をかけますし、答えが見つかれば写真のクリエーションは終わりを迎えるのです」。
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アトウッドの作品はいわゆる社会的弱者を扱うものであり、そこにはメッセージ性を見出すこともできる。しかしアトウッドは、作品によって何かを変えようとしているのではないと話す。
「若い頃は私も繊細で、写真で世界を変えられると思っていました。でも、偉大な写真家だって世界は変えられなかったでしょう」。
本展には手錠をかけられたまま出産する女囚の写真(1993)が展示されている。アトウッドがこれを撮影し、発表されたことがきっかけで、その後の制度を変えるきかっけとなった。こうした事例はあるものの、あくまでそれは結果だという。
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「写真を撮ったところで何の役にも立たない、と時に思うこともあります。それでも、とにかくやらなければならないのです」。これはアトウッドが本展に寄せた言葉だ。アトウッドが被写体に向けた親密な眼差しを会場で確認してほしい。
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