マーケットの盛り上がりに呼応するかのように、今年1月、岸田総理が衆議院本会議の代表質問においてアート振興に言及した。岸田総理はこのなかで「世界的な現代アーティストの輩出につながるよう、作家の国際展開の支援や、作品価格の透明性向上等を通じて取引市場の活性化に注力するなど、文化アート振興を推進していく」としながら、国立美術館について踏み込んだ発言をしている。それが「独立行政法人、国立美術館についてはアート振興の中核として、優れた学芸員の育成による世界的なコレクションの形成、活用や、国立新美術館におけるアートの魅力のグローバルな発信など、抜本的な機能強化を進めていく」というものだ。
3月11日、文化庁は国立新美術館で文化庁アートプラットフォーム事業と今後の展望に関する記者会見およびシンポジウム「グローバル化する美術領域と日本の美術界:我が国現代アート振興の黎明期 ~アート・コミュニケーションセンター(仮称)と国立美術館に期待する役割~」を開催。今後の政策の肝となる「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」について議論が交わされた。
「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」は、データベースやウェブサイト、相談窓口など国内美術館のハブとしての機能を持つもの。令和4年度に設立予定で、初年度の予算は8億5000万円。次年度以降も予算は計上される。
日本では独立行政法人国立美術館が7つの国立館(東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館)を所管しているが、センターはこれらをつなぐ役目を持つ。共同収蔵や修復などを含めた作品活用促進や情報収集、ラーニング、社会連携など、各館に共通する課題を検討し、世界との窓口も担うことで日本のアート振興に寄与するという。館単独では登用が難しいコンサバターやPRなどのプロフェッショナル人材を、センターで共有することも期待される。
遡ると、文化庁は2013年度に初めて現代アート関係の予算を計上。それ以降、「文化庁アートプラットフォーム事業」(2018年度〜)や文化経済部会新設(2021年度)など、アート振興を目的とする政策に取り組んできた。2014年時点ではすでに日本現代美術館の核となる機関の必要性は指摘(2014年10月「現代美術の海外発信に関する検討会」)されており、「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」の設置は、必然的な流れとも言えるだろう。
この「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」のエグゼクティブ・アドバイザーを務めるのは、森美術館館長でCIMAM(国際美術館会議)会長でもある片岡真実。片岡は90年代以降、アジアのアートシーンにおいて「国際展」「近現代美術館」「アートフェア」が3種の神器となってきたとしながら、美術館行政については日本が先行していたとするいっぽうで、香港、上海、シンガポールなどが急速に発展を遂げた現実を指摘。アジア諸国と肩を並べるためにも、国内美術館の基盤整備を国が担う必要性を訴える。その基盤となるのが、今回のセンターだ。
シンポジウムではイギリスの国立機関で複数の美術館を運営する「テート」の事例などが紹介された。元東京国立近代美術館主任研究員で、現在は滋賀県立美術館ディレクターを務める保坂健二朗は、国立館での勤務経験を踏まえつつ「日本の美術館は館単位での思考となっており、それを変えていかないといけない。議論すべきとき」だと指摘する。
「アート・コミュニケーション・センター(仮称)」は各館縦割りの行政に横串を通し、ソフト面を整備するためのものだが、文化庁は将来的にハード面でのハブ整備も見据える。