今回で2回目のタイランドビエンナーレはパンデミックのなか、長谷川祐子を芸術監督、共同キュレーターに黒沢聖覇、ヴィパッシュ・プリチャノン、タワチャイ・ソムコン、そして世界的に著名なアーティスト、オラファー・エリアソンやヤンフー・ドンを含む、総勢25ヶ国、53の作家とコレクティブを迎え、数学者・宇沢弘文による社会的共通資本(*)の概念に触発された「泥の上で戯れる蝶々─思慮深い資本の醸成に向けて」というテーマで始まった。
地方移動型で一線を画す本ビエンナーレ。今回はタイとラオスの二つの文化圏が交わるタイ東北部コラート地方の歴史情緒のあるナコンラチャシマとピーマイという2つの地方都市で開催され、自然環境・社会的インフラ・制度資本の3つの資本に焦点を当て、潜在的な地域の文化・資本の創造及び活性化、経済格差や、パンデミックで分断する地方、中央都市、世界の再構築、そしてキャピタロセンの行く末を問いかける作品などが並ぶ興味深い構成となっている。
故ラマ9世国王が水害の原因であった旧沼地を貯水機能を有す市民の憩場にしたブン・タル・ア水上公園ではタイのアロンコーン・ローワタナとホメサワン・ウマンサップが仏教神話、民族伝承をテーマとして自然共存を謳ったシェルター壁画をつくり出し、廃墟化した古家をコミュニティ空間へ変換させたジャコモ・ザガネリの作品や子供達であふれかえるアシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカスのスケートパーク作品などと共に、現代アートを見慣れない地元の人々の精神的なリミナルな空間として機能していたのは印象的だった。
しかし、なかにはサイトスペシフィック作品としては疑問が残る作品も見られた。国家形成の歴史でラオスから領土を守った業でナショナリストから神格化された「ターオ・スラナリの記念碑」でのサンドラ・シントの作品は、地元学生との協働により、未来への多難な旅を宇宙的な世界観の希望で伝統工芸タイルを使い綴り込んでいるものだが、素朴な描画の未来像に現在も根深く残る領土感情の影を反映しているようには見えず、パンデミック下での作品制作の難しさが見え隠れしているように思えた。