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2022.2.9

修復されたフェルメール《窓辺で手紙を読む女》が来日。東京都美術館で見る「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」

大規模な修復プロジェクトを経て、当初背景に描かれていたキューピッドの絵が出現したフェルメール《窓辺で手紙を読む女》。本作とともにドレスデン国立古典絵画館の所蔵するオランダ絵画の名品を紹介する展覧会「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」が、東京都美術館で2月10日に開幕した。

展示風景より、ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後)(1657-59頃)
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 ヨーロッパの古典絵画を数多く収蔵するドイツのドレスデン国立古典絵画館。そのコレクションのなかから、ヨハネス・フェルメールをはじめとする17世紀のオランダ絵画の名品を紹介する展覧会「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」が、東京都美術館で2月10日に開幕した。そのハイライトをレポートしたい。

会場エントランス

 本展は、大規模な修復プロジェクトを経たフェルメール《窓辺で手紙を読む女》をドレスデン国立古典絵画館に次いで初めて公開するほか、レンブラント・ファン・レイン、ハブリエル・メツー、ファン・ライスダール、ヤン・ステーンなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩った名品約70点も展示される。

展示風景より、右がヤン・ステーン《ハガルの追放》(1655〜57頃)

 展覧会は7つの章で構成されている。冒頭の 「レンブラントとオランダの肖像画」では、17世紀に目覚ましい発展を遂げたオランダの肖像画を紹介する。

 この時期に肖像画を多く制作した作家の代表格がレンブラント(1606〜1669)だろう。今回は《若きサスキアの肖像》(1633)1点が来日。羽飾りのついた帽子をかぶる若い女性が描かれた本作は、顔の上部にかかる帽子の影や細めた目などに、同時代の肖像画とは異なるレンブラントならではの特徴が見て取れるという。

展示風景より、レンブラント・ファン・レイン《若きサスキアの肖像》(1633)

 ほかにも、レンブラントの弟子であったウィレム・ドロストや、大胆な筆致で肖像画の表現を革新したフランス・ハルス、またレンブラントに傾倒したホーファールト・フリンクなど、当時のオランダの肖像画の名手たちの作品が一堂に会する。

展示風景より、ウィレム・ドロスト《真珠の装飾品をつけた若い女》(1654頃)
展示風景より、左がフランス・ハルス《灰色の上着を着た男の肖像》(1633頃)
展示風景より、ホーファールト・フリンク《赤い外套を着たレンブラント》(1640頃)

 「レイデンの画家──ザクセン選帝侯たちが愛した作品」では、ドレスデン国立古典絵画館が所蔵する、オランダのライデン(レイデン)出身の画家たちの貴重なコレクション群が展示される。

展示風景より、へラルト・ダウ《老齢の教師》(1671)

 レンブラントに教えを受けて緻密で精巧な小品を描いたへラルト・ダウや、その弟子であるフランス・ファン・ミーリス、オランダ上流階級の日常を描いたへラルト・テル・ボルフ、フェルメールを意識した作品を多く残したメツーの作品などを展示。

展示風景より、フランス・ファン・ミーリス《画家のアトリエ》(1655〜1657頃)
展示風景より、へラルト・テル・ボルフ《手を洗う女》(1655〜56頃)

 これらの作品の主題は室内空間が多く、日常生活の観察から生まれた精緻な描写を感じられる。いっぽうで、作家たちは現実を越えた絵画ならではの寓意も作品に落とし込んでおり、それらを汲み取りながら鑑賞するのもおもしろいだろう。

展示風景より、ハブリエル・メツー《レースを編む女》(1661〜64頃)

 そして、本展の看板ともいえる展示が「《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復」だ。2017年より始まったフェルメール《窓辺で手紙を読む女》の修復作業は、2021年の初頭に完了した。

展示風景より、ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(1657-59頃)

 本作は、マイクロスコープによる撮影やX線分析といった科学的調査、その課程での専門家による観察によって、絵の背景に飾られたキューピッドの絵がフェルメールではない者の手によって上塗りされていたことが証明された。この上塗りを除去し、フェルメールのオリジナルの絵を蘇らせた作品が、今回展示されている。

展示風景より、ザビーネ・ベントフェルト《複製画:窓辺で手紙を読む女》(フェルメールの原画にもとづく)

 《窓辺で手紙を読む女》はフェルメールが生涯描き続けた室内画のなかでも最初期のもののひとつで、調査の課程でフェルメールが幾度もの手直しを繰り返していたこともわかったという。ふたたび現れたキューピッドの絵には、手紙を読む女性と連関する寓意が込められている。会場では本作とともに、修復前の複製画や修復の様子を伝えるドキュメンタリー映像も用意されており、本作に携わってきた美術関係者たちの尽力も知ることができる。

展示風景より、《窓辺で手紙を読む女》修復のドキュメンタリー映像

 「オランダの静物画──コレクターが愛したアイテム」では、オランダ貿易の繁栄によって生まれた裕福な市民の私邸を飾るために描かれた、豪華な食卓や高価な陶磁器などをモチーフとした静物画を紹介。

展示風景より、ヤン・デ・へーム《花瓶と果物》(1670〜72頃)
展示風景より、ヨセフ・デ・ブライ《ニシンを称える静物》(1656)

 高度な技術によって描かれた静物は、それぞれ宗教的、あるいは哲学的な隠喩が込められており、会場の解説を参照しながら当時の人々の共有していた文脈をひも解きたい。また、静物画から派生したトロンプ・ルイユ(だまし絵)などもこのころに開拓されたジャンルだ。状差しと手紙を描いたワルラン・ヴァイヤンの作品など、ユニークなトロンプ・ルイユも会場では鑑賞できる。

展示風景より、ワルラン・ヴァイヤン《手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し》(1658)

 「オランダの風景画」では、オランダ絵画の黄金時代である17世紀の風景画を紹介。教会堂内部の静謐な雰囲気を光の描写により表現したエマニュエル・デ・ウィッテや、当時のオランダの繁栄を伝えるようにアムステルダムの広場を描いたヘリット・ベルクへイデなど、それぞれが得意とする分野を持っていたことがわかる。

展示風景より、ヘリット・ベルクへイデ《アムステルダムのダム広場の眺望》(16700〜75頃)
展示風景より、エマニュエル・デ・ウィッテ《アムステルダムの旧教会内部》(1660〜70頃)

 また、滝や急流のある風景を多く描いたヤーコプ・ファン・ライスダールの2作品《城山の前の滝》や《牡鹿狩り》(ともに1665〜70頃)にも注目したい。前者の空や木の高さを強調する縦長の構図や、後者の豊かな質感が伝わる樹木の描写などはいまなお新鮮だ。

展示風景より、左からヤーコプ・ファン・ライスダール《城山の前の滝》、《牡鹿狩り》(ともに1665〜70頃)

  「聖書の登場人物と市井の人々」では、聖書をはじめとするキリスト教の書物や、ギリシャやローマの神話などをモチーフとしたオランダの絵画を紹介するとともに、市井の人々の生活の様子を描写した風俗画も展示する。

展示風景より、ヤン・ステーン《ハガルの追放》(1655〜57頃)

 ここでは旧約聖書を主題に大画面の絵画を描いたヤン・ステーンや、農民生活を描いたエフベルト・ファン・デル・プールらの作品を展示。彼らの描いた主題のバリエーションの豊かさとともに、それぞれの作家が志向したリアリズムを楽しみたい。

展示風景より、エフベルト・ファン・デル・プール《農家の恋人たち》(1648)

 また「複製版画」の章では、19世紀にドレスデン国立古典絵画館の所蔵作品を世界に知らしめるために制作された複製版画を展示している。小型で安価な複製版画が多くの人々の教育に寄与したことが伝わってくる。

展示風景より、右がアルバート・ヘンリー・ペイン《放蕩息子の譬えに扮するレンブラントとサスキアの肖像(レンブラントの原画に基づく)》(1848頃)

 17世紀オランダの威光とともに、当時花開いた絵画の豊かな表現を知ることができる展覧会。修復されたフェルメール作品とともに、当時のオランダ絵画の佳作に触れてみてはいかがだろうか。