2017年、東京大学中央食堂に展示されていた宇佐美圭司(1940~2012)の巨大絵画《きずな》(1977)が、改修工事にともなう不用意な廃棄処分によって失われた。この「事件」は各メディアでも大きく扱われ、東大と東大生協が謝罪する事態となった(東大はその後18年にシンポジウム「宇佐美圭司《きずな》から出発して」を開催した)。この作品廃棄を契機に開催されるのが、東京大学駒場博物館の「宇佐美圭司 よみがえる画家」だ。
まずは宇佐美の経歴を振り返っておきたい。宇佐美は1940年大阪府生まれ。高校卒業後に上京し、63年に南画廊でオールオーバーの抽象絵画を発表し注目を集めた。65年にはアメリカで起きた人種差別に反対する暴動事件「ワッツ暴動」の写真から切り出した人型を用いた絵画を展開。70年には大阪万博の「鋼鉄館」の総合演出を担っている。
晩年は制動が変化させる運動エネルギーをテーマにした「大洪水」シリーズを制作。また、レーザー光線を用いた作品や、横顔を組み合わせた作品でも知られ、2002年には芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。武蔵野美術大学や京都市立芸術大学の教授も歴任し、著書も多数残した。
本展は、この宇佐美の長年にわたる活動を概観するものだ、初期の抽象絵画から晩年の「大洪水」の絵画まで、計10点の宇佐美の作品を展示。手がけることが少なかった彫刻作品や、レーザー光線を用いた《Laser: Beam: Joint》(1968)の再制作も見ることができる。宇佐美の軌跡をたどることができる貴重な機会と言えるだろう。
また、失われた《きずな》の再現画像を映像で展示。この映像を1980年に再制作されたマルセル・デュシャン《花嫁は彼女の独裁者たちによって裸にされて、さえも》(通称、《大ガラス》東京バージョン)とともに展示することで、現代美術における再制作を論点とする。
本展を企画したひとりである東大・加治屋健司教授は、宇佐美について「人生の大半を絵画を中心に活動した。絵画に可能性をもたらしたいっぽうで、『現代美術』の作家として見えにくくなってしまった」と語る。本展は、そうした宇佐美の絵画をあらためて展覧会というかたちで提示することで、現在における宇佐美の重要性を「再発見」する契機となりうる。
本展では、同大学名誉教授の高階秀爾や、宇佐美と深い親交があった岡﨑乾二郎の寄稿文、宇佐美の略歴、展覧会歴、文献目録も収録した図録も作成。展示とあわせて見ることで、宇佐美圭司の姿が蘇ってくることだろう。