擬人化した動物たちや人々の営みを、墨の線のみで躍動的に描いた国宝《鳥獣戯画》。その全場面を一挙に展示する特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が、上野の東京国立博物館で始まった。
鳥獣戯画は平安時代・12世紀に描かれたもの。甲・乙・丙・丁の4巻からなり、全長は44メートルにおよぶ大作だ。それぞれに動物や人間たちの個性豊かな姿が描かれており、そのユーモラスな姿は人気が高い。
本展は3章構成で、この4巻すべては1章で展示。とくに人気のある「甲巻」は、鑑賞者は動く歩道に乗り、絵巻をたどることとなる。
続く第2章では、鳥獣戯画の一部が本体と切り離され、掛軸などに仕立て直されて伝来した断簡、《鳥獣戯画断簡(東博本)》や《鳥獣戯画断簡(MIHO MUSEUM本)》(ともに12世紀)などを展示。
「東博本」は甲巻から分かれたとされる断簡で、各巻に押される「高山寺」印がないことなどから、江戸時代初めには既に甲巻を離れていたとみられている
いっぽうの「MIHO MUSEUM本」には兎と猿の競馬(くらべうま)とそれを見物する動物たちが描かれており、これは甲巻系の断簡とされている。
このほか同章では、甲巻の画面順序が入れ替わる前の状態を模した《鳥獣戯画模本(長尾家旧蔵本)》(15~16世紀)をはじめ、江戸幕府の御用絵師だった狩野探幽による《鳥獣戯画模本(探幽縮図)》(17世紀)など、様々な絵師たちが描いた鳥獣戯画の「模本」も展示。
本展は《鳥獣戯画》のみならず、こうした断簡と模本によって鳥獣戯画本来の姿を紐解くものとなっている。
なお最終章の3章では、《鳥獣戯画》が伝わった京都・高山寺ゆかりの品々を展示。普段は公開されておらず、寺外での展示は28年ぶりとなる「秘仏」、重要文化財《明恵上人坐像》(13世紀)をはじめ、明恵上人が夢を記した重要文化財《夢記》(1220)や、明恵上人が生涯で詠んだ歌を編纂した国宝《明恵上人歌集》(1248)、手元に置いて愛玩したと伝えられる重要文化財《子犬》(13世紀)なども見逃せない。