損害保険ジャパン本社ビル42階にあった東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館が、新たに「SOMPO美術館」として開館を迎えた。
そもそもSOMPO美術館の歴史は1976年に遡る。財団法人安田火災美術財団が東郷青児から自作約200点と、東郷が収集した国内外の作品約250点の寄贈を受けたことで、当初「東郷青児美術館」として開館。その後名称変更を重ね、14年から東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館として運営されてきた。今回の新美術館構想は2015年に着手されたもので、将来にわたって芸術文化を発信する拠点となり、社会貢献を果たしていくための建物として設計された。
東郷青児の作品からインスピレーションを得たという柔らかな曲線が特徴的なSOMPO美術館は、地下1階から地上6階までの7層。1階がエントランスで2階がミュージアムショップと休憩スペース、そして3階から5階が展示室となっている。建築設計は大成建設が、展示室デザインと内装は丹青社が手がけた。延床面積は3955平米。
まず1階のエントランスでは、大きな開口部が目を引く。これは、西新宿の街と美術館をつなぐ役割を果たすもの。正面玄関前には、同館を象徴する作品であるフィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》(1888)の陶板複製が展示され、こちらも美術館への入館を促す。
2階は、ミュージアムカフェとミュージアムショップ。ゆるやかに弧を描く窓面や、木材によって装飾された高さ5メートルの天井よって、明るく開放的な空間となった。なお新型コロナの影響によりカフェは当面営業されないので注意してほしい。
3階から上はいよいよ展示空間だ。展示室は、白を基調とした空間で、臨機応変な展示ができるように設計された。
開館記念となるのは、「珠玉のコレクション─いのちの輝き・つくる喜び」(日時指定入場制)。70点の同館コレクションで構成された本展は、「四季折々の自然」「『FACE』グランプリの作家たち」「東郷青児」「風景と人の営み」「人物を描く」「静物画─花と果物」の6章。展示は5階から始まり、下へと降りる順路となる。
第1章では、自然を愛した日本画家・山口華楊の大作《葉桜》(1921)を展示。同作は、この開館に向けて虫害による欠損や皺などを修復し、披露された。
続く第2章は、同館が2012年度から行っている新進作家顕彰事業「FACE」において、グランプリおよび優秀賞を受賞した歴代作家たち12名を紹介。
同じフロアでは、第3章として同館開館のきっかけとなった東郷青児の作品を展覧することで、美術館の過去と現在を接続させる。なおこの章では、同館と東郷青児との関係の始まりとなった、1936年の顧客配布用カレンダー(東郷青児が原画を担当)の原物など、貴重な資料も展示されている。
第4章では、グランマ・モーゼスやモーリス・ユトリロ、ポール・ゴーギャンら、19世紀後半から20世紀にかけて描かれた欧米の風景画を紹介。
続く第5章では、ルノワールの《浴女》(1892〜93)に注目したい。同作は、過去に修復された際に塗布されたニスが経年変化し黄ばみが生じていたが、そのニスを除去。なるべく手を加えず、作品オリジナルの状態に近づけるように修復作業が行われた。
そして終章では、同館コレクションを代表するゴッホの《ひまわり》が迎えてくれる。
同作は、ゴッホがアルルに移住した1888年に制作されたもの。同年が損保ジャパンの創業年と同じであったため、創業100周年となる1988年に記念として購入された。作品は低反射の特別仕様ガラスケースに入っているため、細部まで鑑賞できる。作品をより一層身近に感じられるようにとの工夫だ。
SOMPO美術館館長の中島隆太は、開館にあたり「新美術館の活動が新宿西口エリアのアートランドマークとして、日常的に芸術文化に触れる多くの機会につながれば幸いです」とコメント。今後も近現代を中心とした絵画展を行ういっぽうで、「FACE」などの作家支援、新宿区立の小中学校を対象とした鑑賞教育などを実施していく。
なお次回展は、10月6日より「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」を開催。《ひまわり》や《アイリス》などゴッホの静物画26点を展示するとともに、ゴッホ以外の作家たちによる「ひまわり」や、ゴッホが影響を受けたドラクロワやゴーギャンなどの静物画40点を紹介する。なおこの展覧会では、ゴッホ《ひまわり》がケースから出されて展示されるので、こちらも注目したい。