シリーズ累計発行部数が1億部以上を記録し、国内外の幅広い世代から支持されている荒木飛呂彦によるマンガ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ。予想ができない展開ながらも王道を進むストーリー、個性豊かな登場人物たちとその世界観、そしてセリフから擬音語まで様々な要素が注目と人気を集め、2018年で連載30周年の節目を迎えた。
これを記念し、東京・国立新美術館と大阪文化館・天保山で「荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋」が開催。荒木の画業の集大成ともいえる大ボリュームの展覧会だ。では、8月24日からスタートする東京会場の見どころを見てみよう。
本展のために描き下ろされた第3部主人公・空条承太郎の特大イラストパネルを見ながら展示室の中に入ると、「第1章 ジョジョクロニクル」のコーナーが始まる。ここでは1部から現在連載中の第8部「ジョジョリオン」までのストーリーを追うことができる。
シリーズの復習をしながらすすむと、「第2章 宿命の星 因縁の血」の展示室。ここでは各部の主人公たちとともに、主人公たちと死闘を繰り広げた悪役のキャラクターたちにまつわるカラー原画やマンガの原画を展示。それぞれの名言が張り巡らされたインスタレーションも必見だ。
続く「第3章 スタンド使いはひかれ合う」は、第3部以降登場し、いまではジョジョシリーズの代名詞ともなっている能力「スタンド」に焦点を当てた展示室。
ここで原画以外にも注目したいのが、彫刻家・小谷元彦による本展のために制作された新作《Morph(モルフ)》だ。「ジョジョ」で表現される、身体を切る、溶かす、歪む、穴が開くといった表現を、小谷自身の彫刻感と結びつけたという作品。小谷は本作について、「ジョジョ本編では、瀕死の状態からスタンドが出てくるのがおもしろい」と語り、その「スタンドという不可視なものが出現する瞬間を、彫刻という物体に託し、現実空間で展開させた」という。
続く「第4章 JOJO's Design」では、荒木が描くスタイリッシュな表現に注目。色鮮やかで斬新な構図のカラー原画が一段と目を引く展示室だ。
そして「GUCCI」や「BVLGARI」といったハイブランドともコラボレーションをしてきた「ジョジョ」が、今回コラボする相手はファッションブランド・アンリアレイジの森永邦彦。本展では、空条承太郎や岸辺露伴、DIO、空条徐倫といった人気キャラクターのポージングをしたマネキンが着ている衣裳に紫外線のライトを当てると、それぞれのスタンドをイメージした模様が浮き出るという作品を発表している。
森永は「マネキンが洋服を脱いでも、この服自体がキャラクターのポージングと同じかたちで固定されており、完璧に同じポーズができないとうまく着こなせない服」であると明かし、「キャラクターの造形と、目に見えないスタンドを表現しました」と語った。光が当たるとそれぞれの服はどのような表情を見せるのか、ぜひ実際に展示室に足を運んで確認してほしい。
「第5章 ハイ・ヴォルテージ」では、各部の最終決戦の原画を展示。各話を初めて読んだときのことを思い出しながらその世界観に浸りたい。
そして「第6章 映像展示AURA〈アウラ〉」では、ビジュアルデザインスタジオのWOWによる、スタンドの誕生から戦いの歴史までがフルCGで表現される。眼前にスタンドが現れるような臨場感ある映像は必見だ。WOWは「30年読み続けている作品をどう表現するかを考え、スタンドだけではなく波紋も表現したいと思いました。スタンドが立ち上がる前に、波紋と同じように生命の源泉があるという仮設を立てて表現した作品です」とコメントを寄せている。
本展のなかでももっとも注目したいのが、「第7章 新作大型原画ゾーン 《裏切り者は常にいる》」だ。ここでは「ジョジョ」に登場する12人のキャラクターの12人のスタンドが、ほぼ等身大で描かれている。キャラクターたちの世界と、読者たちの世界の境界線をなくし、鑑賞者とキャラクターが同じ世界にいるような感覚に浸れる大作だ。
荒木は本作について「まず絵を描く目的が、キャラクターの世界と自分たちの世界を一体化させることでした」と語る。「30年連載している作品なので懐かしさを感じるのもいいけど、大きい絵だと私たちと一体化するような感覚になってまたひと味違う。囲まれるようにコの字型に配置しているので、楽しんでほしいです」。
本展の最後を飾るのは、「第8章 ジョジョリロン」。ここでは荒木が新作大型原画を描く際に使用した道具や下書き、そして制作中の映像を見ることができる。その創作の裏側に触れられる必見のコーナーだ。それ以外にも、「ジョジョと美術」についての考察なども読むことができ、ジョジョの世界を様々な角度から見ることができる。
「史上空前の〈JOJO〉の祭典」と掲げているだけあり、充実した内容の本展。往年のファンだけではなく、荒木が描き出す「ジョジョ」の世界に初めてふれる人にとっても新鮮な驚きを得られる展覧会となっている。
なお、本展の音声ガイドは荒木自身がナレーションを務めている。こちらも興味のある人は要注目してほしい。