「Anima Ludens(アニマ・ルーデンス)」展レポート。現代美術とインディーゲームの融合を通じて、芸術と生命のあり方を再定義する

フランス・アルルのトリニテ修道院礼拝堂で、現代アートとインディーゲームを起点とした国際展「Anima Ludens(アニマ・ルーデンス)」が10月10日〜11月8日の会期で開催中だ。先端テクノロジーとアート&カルチャーをテーマとする現地の芸術祭「Festival Octobre Numérique 2026」の一環として企画された本展の模様を、共同キュレーターの中川大地への取材をもとにレポートする。

聞き手・文=三澤麦(編集部) 写真提供=一般社団法人 渋谷あそびば制作委員会 / ars●bit

「Anima Ludens」展示風景より、戸村陽・薄羽涼彌・HSP・ma 間マ摩《Here ∋ lsewhere》ほか

 フランス・アルルのトリニテ修道院礼拝堂で、現代アートとインディーゲームを起点とした国際展「Anima Ludens(アニマ・ルーデンス)」が10月10日〜11月8日の会期で開催されている。本展は、遊びとゲームを軸にした分野横断クリエイター支援プロジェクト「ars●bit(アーソビット)」の一環であり、文化庁採択事業として2025年より本格始動した活動の集大成となる。

 タイトルの「Anima Ludens」とは、人間の本質が「遊ぶ」ことだと説いた歴史家、ヨハン・ホイジンガの「Homo Ludens(ホモ・ルーデンス:遊ぶ人)」をもとに、これを「生命(Anima)」全体に拡張する造語だ。アートとゲームに通底する「遊び」の視点から芸術や生命を再定義することで、ポストヒューマン時代の新たな創造原理を探ることを試みる。

 展覧会は、先端テクノロジーとアート&カルチャーを掲げる現地の芸術祭「Festival Octobre Numérique 2026」のメインプログラムとして企画された。プロジェクト最大の目的は、日本発の育成対象アーティストを海外へ発信し、その存在感を高めることにある。国内での制作支援や基盤づくり、アジアでの発表を経て、今回アルルでの開催に至った。

10月9日に行われた共同キュレーターVincent Monchoによるメディア向けの展示ツアー

現代アートとインディーゲームの領域横断を目指す

 今回参加したのは、宇佐美奈緒、大小島真木、カミエナ・塩見亮介・金子尊、草野絵美、KOTAKE CREATE、contact Gonzo、塩見亮介、たかくらかずき、竹内義博、戸村陽・薄羽涼彌・HSP・ma 間マ摩(Shin)、はなぶし × hako生活、フツララ(futurala)、ヤノベケンジ・BAN8KU・YANOKEN PROJECTの計13組。「インディーゲームクリエイター」「現代美術作家」「ゲームとアートを融合させる作家」「異分野コラボレーション・プロジェクト」という4つの軸で構成され、礼拝堂の空間性を活かした動線が敷かれた。構成には、プロジェクト立ち上げ前から京都で展開してきた「art bit」展の強みである、「インディーゲーム×現代アート」のグループ展形式やキュレーション手法が生かされている。

 古代から続く伝統建築が建ち並ぶアルルの教会内を改装した会場では、ゲームプレイの一回性とペインティングのアクション性を結晶化して「NEW GAME」の開始を告げる竹内義博の絵画《Re:》を入口に展示。ゲーム媒体の作品と現代美術作品が左右に対置するように作品が並び、奥へと進むにつれて双方が溶け合う構成となっている。

会場エントランス付近に展示される竹内義博《Re:》

 ゲームにおける「リミナルスペース」表現の代表的存在として世界的なヒットを記録したKOTAKE CREATEによるウォーキングシミュレーター『8番出口』をはじめ、はなぶし × hako生活の人外ペアキャラクターが躍動する2Dドットアクションゲーム『PIGGY ONE SUPER SPARK』、AIによる身体像の絶えざる最適化とそれによる女性性の変容を批評的に表象する草野絵美の「Ornament Survival」シリーズ、フェミニズム研究の文脈から傷つけられた女性の身体性・体験を深く掘り下げる宇佐美奈緒のアートゲーム《I stitch my skin to the ground》といった現代的主題を抱えた作品群が、対をなすかたちで並ぶ。

KOTAKE CREATE『8番出口』
草野絵美《Ornament Survival – Nursing the Machine》

 それらのビデオゲーム/現代美術ペアのセンターに位置し、とくに来場者が大きく盛り上がるのが、入口から奥へと続く動線に設置された、アーティストユニットcontact Gonzoによるゲーム/アートの融合インスタレーション《Fortune Assholer》だ。木製レールからコインを滑らせ、回転するレコードプレイヤー上のジョッキを狙う原初的なコインゲームで、投じられたコインの当たり外れの蓄積もアーティスト自身がカッティングしたレコード盤面の傷として物理的にセーブされる。昨年の京都での「art bit #5: 幽体遊儀場(ファントム・ゲームセンター)」やシンガポールでの「ART BIT MATRIX: TOKUSATSU to VIDEOGAME」に続き、鑑賞者を巻き込むソーシャリー・エンゲイジドなパフォーマンスとして人気を博していた。

contact Gonzo《Fortune Assholer》のプレイ風景

 展示空間の中央からはステップの段差とスロープによって隔たれ左右対称の構図が崩れ、その境界をつなぐ動線上に大小島真木の《渦き》《fontanelle—シシ》《Re forming 〈 I 〉ver.2》が展開。これは人間と人間ならざるものの表象に着目し、AI合成した映像や彫刻・陶器を組み合わせたインスタレーションで、ここから本展のメインビジュアルにもなっている未知の生命を培養するフツララのインディーゲーム作品『CultureHouse』にも接続。いよいよ遊びとゲームを通じた「芸術」と「生命」の創造の根幹に迫ろうとする展覧会の主題が明確化していく。

大小島真木《渦き》
フツララ(futurala)『CultureHouse』のプレイ風景

 ステップ上のエリアでは、ビデオゲームやピクセルアートを現代美術の文脈で展開してきた、たかくらかずきによる仏壇型の筐体《GAME OVER: BUTSUDAN GAME》が、教会空間でひときわ異彩を放つ。本作は、木彫仏壇作家とのコラボレーションにより、六道輪廻転生の世界をアイスクライマー風に登っていくゲームを搭載し、「死」というゲームオーバーからの再生を儀式化している。

 その隣には、鍛金作家・塩見亮介がオウギワシをモチーフに銅や鉄を鍛えた付喪神的な甲冑作品《鷲面附茶絲素懸縅兜袖「扇」》が並び、さらに対面に伝統的な鍛金技法とデジタル体験を融合させるゲームアートプロジェクト「PRJ CÔGEIMU」(カミエナ・塩見亮介・金子尊)の最新作《ARE YOU THERE?》が、ゲームの遊び相手に見立てることで「もの」に新たな生命を宿らせるという果敢なアプローチを見せる。

 同じく分野横断プロジェクト型の作品としては、CREATIVE JAMを通じて昨年の大阪・関西万博の上演イベントにて多人数同時参加型のゲームインスタレーションを制作した戸村陽・薄羽涼彌・HSP・ma 間マ摩(Shin)のユニットが、新作《Here ∋ lsewhere》を出展。本展では展示会期を通じて来場者がシンプルな空間構築の遊びに少しずつ携わり、やがてひとつの宇宙が生まれていくという、新たなゲーム・プレイング・ソサエティの実験に取り組んでいる。

たかくらかずき《GAME OVER: BUTSUDAN GAME》
塩見亮介《鷲面附茶絲素懸縅兜袖「扇」》
カミエナ・塩見亮介・金子尊《PRJ CÔGEIMU『ARE YOU THERE?』》

 そして最奥部には、地球上の生命の起源は宇宙空間にあるとするパンスペルミア説をもとにした、現代美術作家・ヤノベケンジの宇宙猫シリーズ「SHIP’S CAT」をアーケードゲーム化するという想定の筐体彫刻が鎮座する。ピクセルアーティストのBAN8KUが制作したゲームの原画となるアートワークや、京都芸術大学など産学連携により制作された「YANOKEN PROJECT」のゲームのプレイアブル展示とともに、本展の看板作品として存在感を放っていた。

ヤノベケンジ《The Spaceship of SHIP’S CAT》

「遊ぶ人」から「遊ぶ生命」へ

 海外のデジタルアート系の展覧会やフェスにおけるゲームアートやゲームエンジンを用いた展示作品の多くは、あまりゲーム性や自由な遊びを重視せず、あくまでコンセプトの表象と設計した体験の伝達に留まる作品に偏りがちだと中川は指摘する。対して「遊び」そのものの芸術性を焦点とする「Anima Ludens」展では、フェスティバル全体のテーマである「抵抗」に即して現実状況への批評性を担保しながらも、「純粋にゲームとして遊んで楽しい」体験との両立を目指し、現地でも確かな手応えを得たという。企画段階から空間構成に至るまでともに尽力した本展共同キュレーターでOctobre NumériqueディレクターのVincent Monchoら現地の芸術祭チームによる手厚いサポートも、その成功を後押しした。

10月28日、Octobre Numérique 2026の関連芸術祭「CHRONIQUES – Biennale des Imaginaires Numériques」が主催するプログラム「MIN(Marché des Imaginaires Numériques)」参加の国際代表団による「Anima Ludens」展の展示ツアー。一般来場者に混じり、世界各国の多くのメディアアート関係者がアルルを訪れた

 今回のクリエイター支援プロジェクトは、本展をもって第1期の集大成を迎える。今後はこの展示パッケージをプロトタイプとし、他都市への巡回や、参加アーティスト個々の海外展開支援にも注力していきたいと、中川は展望を語った。

10月30日、エクス=アン=プロヴァンスの6MICで行われた日本チームのセッション。MINの国際プログラムとして、本展出展者らが日本代表団として参加。本展プロデューサーの村上雅彦、出展アーティストのたかくらかずき、草野絵美が、アート関係者に向けて「Anima Ludens」展と出展作品についてプレゼンテーションを行った

編集部

Exhibition Ranking

DESIGNART TOKYO 2026

2026.10.30 - 11.08
銀座・東京・六本木・外苑前・表参道・原宿・代官山・池尻エリア
丸の内 - 銀座|東京