2024.4.17

増井岳人の個展「piece/peace」が渋谷のアートギャラリーHECTAREで開催へ

渋谷のアートギャラリーHECTAREで、彫刻家・増井岳人の個展「piece/peace」が開催される。会期は4月26日〜5月26日。

メインビジュアル
前へ
次へ

 東京都渋谷区のアートギャラリーHECTARE(ヘクタール)で、彫刻家・増井岳人の個展「piece/peace」が開催される。会期は4月26日〜5月26日。

 増井は1979年神奈川県出身。2001年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業し、03年に同大学院美術研究科修士課程修了。素材自体が持つ原始的なエネルギーに着目し、土を用いた陶器作品や彫刻作品を数多く生み出してきた。近年の個展には、「増井岳人彫刻展 / ギャラリーせいほう」(2020)、「Taketo Masui Solo Exhibition『good night』/ スパイラル」(2021)、「Taketo Masui Solo Exhibition『NOW』/ GALLERY 隙間」(2022)、などがある。

ヨクミキキシワカリソシテワスレズ 2024 縄文土器片 W23×H46×D23 cm 
イツモシヅカニワラッテヰル 2024 縄文土器片 W23×H27×D23 cm 

 本展では、増井が日本各地で縄文土器の破片を拾い集め、その破片を組み合わせることで生まれた立体作品《土偶坊》を展示。その作品は、現代に再びかたちを変えて出土した土偶のようでもあり、破片同士を接合する際にできるつなぎ目は、本当に縄文人がいたことを証明する痕跡でもあるという。

 また、土器の文様を用いた平面作品は、土器をキャンバスの裏に当て表面を鉛筆で擦るフロッタージュの手法で制作されている。ほかにも、未発表だった人差し指の折れたピースサインの彫刻《サウイフモノニワタシハナリタイ》も同時に展示。約1万年前に生きた縄文人が土と火を使いこなし形成した土器のかけらと現代を生きる増井の手仕事が、「平和」「豊かさ」とは何かと語りかけてくるようだ。

サウイフモノニワタシハナリタイ 2009〜24 テラコッタ W85×H200×D85 cm 
DAVE & PIECE 2024 キャンバスに鉛筆、アクリル W115×H115×D3 cm 

 増井の個展開催に寄せて、同ギャラリーの共同オーナーである内田俊太郎は次のようにステートメントを公開している。

豊かさとは何なのか、その問いを外へ放ってみる。しかし返答がないどころか、沈黙の虜になっている。今度はそれをまるで古い井戸の中に小石を落とすかのように内側に問うてみる。深淵からわずかばかり響いてくるものがある。その井戸に繊維のように細い糸を垂らし、ゆっくりとゆっくりと降りていく。やがて地底までたどり着くと上空を見上げる。針の穴ほどの光の粒が星のように一つ浮かんでいる。あたりは真っ暗闇で、目を開けていても閉じていてもさして変わらない。ゆえに目を瞑ることにする。するとどこからかざあっと風が吹いて、まるで太古から後世へと自由に往来するような感覚に包まれる……。さらに時間軸が歪み、ねじれることで亀裂が生じる。この裂け目を縫合するようにピースとピース、破片と破片を紡いでいくと一つの像が形成される。それが増井岳人作「土偶坊(でくのぼう)」である。土偶坊は縄文土器の破片を実際に増井氏本人が拾い集め、その破片をパズルのように組み合わせて出来たものだ。 そもそも本来、「でくのぼう」は「木偶坊」と表記する。しかし増井氏は、詩人・宮沢賢治が遺品の手帳の中であえて《木》を《土》と記したことに感化され、そのまま引用している。我々は元来、農耕民族であり誰もが滞在的に「土」の感触をいまだに握りしめているのではないだろうか。幼いながらに土いじりをしていたのもその名残りだろう。増井少年もその一人に違いない。あらゆるものが時空を超えて繋がっていて、その少年の記憶は太古へと繋がっている。 諸説はあるが、縄文時代は一万年続いた争いのない時代だったという。そういう意味で縄文時代は平和と豊かさの象徴なのかもしれない。しかし、増井氏は決して平和とはこうだ、豊かさとはこうであると断定したりはしない。ただただ、縄文人の暮らしに寄り添い、想いを馳せる。その時間こそが最も豊かなことであるということに、我々は気付かされるのである。

HECTARE 内田俊太郎
増井岳人