東京・銀座の「ギャルリーためなが」で、3年ぶり、4度目となる「菅原健彦展」が開催されている。会期は3月19日まで。
本展では新作約40点を公開。《淡墨桜》や《滝桜》、《臥龍の松》、鹿児島県・屋久島の《大王杉》、青森県・白神山地にある十二湖のひとつである《青池》といった作品をはじめ、《小夜の池》や北海道・摩周湖の《神の子池》などが一堂に会する。
菅原健彦は1962年東京生まれで、現在滋賀県在住。多摩美術大学で日本画を専攻後、1996年に山梨にて樹齢千年を越える神代桜との運命的な出会いを果たす。古木の幹から放たれる生々流転する生命のダイナミズムに衝撃を受け、その躍動する生命力を20年以上にわたり独創性の高い表現で描き続けている。2012年のパリで開催された初個展を皮切りに世界の舞台へ躍進。大阪のザ・シンフォニーホールのエントランスや京都迎賓館をはじめとする世界有数のホテルや公共施設の壁面を彩り、国内外から高い評価を得ている。
菅原は日本画の伝統技法を継承しつつも、「表現したいものを表現する」という熱い一念を抱いており、多岐にわたる表現方法で自然界の力強いエネルギーと出会った衝撃を描いてきた。
金箔やプラチナ箔の上に日本でもっとも古い墨として知られる松煙墨で自然のひび割れをつくり、古木の幹の生命力を大胆に表すほか、越前の手すき和紙の裏からドーサ(礬水:薄めた膠液に少量の明礬を入れたもの)を流し、白く抜きでたところに墨や水干絵具で描きたす裏彩色の技法を用いて優美な枝ぶりを表現している。
代表的な作品のひとつ、紺色の雁皮紙に黒の松煙で木の幹を盛りあげて描く《青池》は、秋の青森県・十二湖のひとつ、青池を訪れた際に霰(あられ)が降ってきた様子を描いたものである。黒の幹に胡粉の白色を重ねたところで「これで良い」と絵が訴えかけてきたという本作。それは十数年前に描いていたモノクロの作風に立ち戻るかのような不思議な心地がしたという。
いっぽうで菅原は「成功を踏襲せず、成長を続けていたい」とも語っており、また「絵を描くことは永遠に追いつけない恋人を追いかけるようなものだ」と自身の画業を表現。昨年パリで好評を博した個展を繰り返しはしない、という想いに突き動かされたとも言い、新たな可能性を求めて北海道を訪れることで新作《神の子池》を誕生させた。本作はプラチナ箔に青色を乗せ、美しいコントラストを生み出した作品となっている。
菅原は作品を、人智を越えるような自然の神秘や命のダイナミクスと出会った時の衝撃を受け止めて描いているという。自然に対する畏敬の念や、美しさを称えた壮麗な作品の持つ力強さと優美さ、凛とした静けさといった静動が、多くの感動を呼んでいる。
歳月を重ねることでより一層自由に解き放たれた菅原の進化を目にすることができる本展。この機会にぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。