2023.2.17

「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」の前期会期がスタート。参加作家は國川裕美、星野薫、吉濱翔

公益財団法人ポーラ美術振興財団による海外研修助成を受けた若手アーティストらの作品を展示する「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」の前期会期が、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開催中だ。展示作家は國川裕美、星野薫、吉濱翔。

展示風景より、「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」(前期)
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 公益財団法人ポーラ美術振興財団の助成による海外研修に参加した若手アーティストらの作品を展示する「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」の前期会期が、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで3月12日まで開催中だ。前期の展示作家は國川裕美、星野薫、吉濱翔。

展示風景より、「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」(前期)

 同財団は、日本の芸術分野の専門性の向上を目的に、1996年より若手アーティストの海外研修助成を開始。本展は、近年の研修員から採択された6名の作品を前後期に分けて展示し、研修成果をより多くの人々の目に触れる機会を創出するものだ。第21回目となる今回もポーラ美術館館長・木島俊介が監修を務め、「自立と統合」をテーマに作品を紹介する。

 本展の開催に際し、編集部は展示作家にメールインタビューを実施。今回の展示や展示作品、今後の取り組みなどについての回答を作家ごとに紹介する。

國川裕美

 國川裕美は東京都出身の石彫アーティスト。2013年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業、15年には同大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程を修了している。19年に参加した海外研修ではイタリアに滞在。23年には個展「國川裕美展 -paradiso-」(1月10日〜30日)が日本橋高島屋 美術画廊Xで開催された。

展示風景より、「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」(前期)

──今回の展示で実現したいと思ったことを教えてください。

 古代エトルリア(現在のイタリア半島中部)において、鳥は神々の世界と地上の人間の世界をつなぐ使者の役割を持っていました。今回の展示では、群馬県の多胡石を用いて制作した「使者としての鳥」をメインに、現世と来世をつなぐものとしての新たな石彫を試みました。

──石を素材とする制作活動を通じて、日々どのようなことを感じていますか。

 石頭(せっとう)と石鑿(いしのみ)というシンプルな道具で時間をかけて彫り出す作業は、非効率的で量産できないなど、いまの時代と逆行していると感じます。ただ、ゆっくりと時間が流れる制作時間は、忙しない日常と異なり、当たり前のことに気づかせてくれます。現代の消費の速さとは時間軸の異なる素材ですが、それをじっくりと味わってもらえるような作品づくりをしていきたいです。

──ハシビロコウなど動物をモチーフとする作品が多く制作されています。石彫りで動物のかたちを表す際のこだわりはありますか。

 動物たちが何を考えているのか。その対象を知り、彼らと距離を縮めたくて、手彫りで時間をかけて会話を重ねるように彫っていきます。イタリアにいたときは石づくりの建築物が多く、石という素材を身近に感じましたし、違和感がありませんでした。日本は木造住宅が多いので、石彫はとてもマニアックな近づきがたい存在に感じます。でもそんな素材の持つ、固くて冷たい印象を柔らかくてあたたかいものに変えていきたいです。

──今回の展示を経て、今後取り組んでみたいと思ったことを教えてください。

 イタリア在外研修中にCOVIDが蔓延し、死の恐怖を身近に感じたことをきっかけに、エトルリア文明の遺跡を訪れたなかで出会ったその死生観に強く惹かれました。今後は動物のモチーフだけでなく様々な作品を制作していきたいです。

星野薫

 星野薫は埼玉県出身のアーティスト。2012年に多摩美術大学絵画学科を卒業、15年には同大学大学院修士課程を修了した。18年にはドイツのハンブルク美術大学へ入学し、翌年本研修に参加している。本展で展示される《植物の成長戦略をめぐる陰謀論》(2021)の会場設計において、星野は次のようにコメントしている。

「在外研修先として滞在していたドイツでは展覧会のオープニングパーティーが終わる頃になると、来場者が飲み終わったビールの瓶が会場に無造作に置かれている光景がよく見られます。あちこちに置かれた空き瓶が人の動きを可視化している状況と、植物がその分布図を拡大させるためにあらゆる環境下に適応するように、多様に発達させた成長戦略についてこの作品を通じて言及したいと考えています。したがってこの作品は植物が私たちの予想を超えた成長戦略を繰り広げるように、会場内のあらゆる場所に配置されることが重要な要素となります」。 
展示風景より、「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」(前期)

──今回の展示で実現したいと思ったことを教えてください。

 今回のグループ展は3人の区画が区切られているスタイルだと知ったとき、その境界線をぼやかせたらいいなと思いました。区画の外にも一部作品を設置し、ほかの2名との空間をつなげる試みをしました。

──展示作品である《植物の成長戦略をめぐる陰謀論》(2021)について、ビールの空き瓶から植物の生存戦略へと発想がつながった背景について教えてください。

 例えば、私がいまいる部屋のなかを見渡してみても植物をモチーフにしたデザインはいくらでもあります。自然がつくり出したそのかたちが美しいからデザインとして採用されていると私たちは考えるわけですが、もし植物がその種を広げるために生み出した成長戦略に人間が巻き込まれていると考えたらどうでしょうか。あまりにも見慣れてしまい誰からも注目されなくなったものを植物のかたちに変え、再び風景のなかに忍ばせました。

──会場内に作品が点在しているとのことですが、今回の会場構成で意図したことについて教えてください。

 この作品は風景のなかに溶け込ませるようにして展示することが大切でした。ですから展示台の上に作品を置くというよりも、会場の隅などにビールケースを配置し、パーティー後のような雑多な状況をつくり出し、そのなかにこっそりと作品を配置したいと思いました。もしこれが作品だと気がつかない人がいてもそれはそれで良いと思います。

──今回の展示を経て、今後取り組んでみたいと思ったことを教えてください。

 今回の展示では、ドイツで制作した作品を日本へ輸送したりと準備に想像以上の時間を要しました。作品をつくる以外の作業を計画的に行う技術も同時に身につける必要性を感じました。

吉濱翔

 吉濱翔は沖縄県出身の美術家・演奏家。2010年に沖縄県立芸術大学美術工芸学部絵画専攻を卒業した。12年には「トーキョーワンダーサイト平成24年度二国間交流事業」においてバルセロナのHANGARで滞在制作、17年に本助成を受けてイギリスで研修を行った。

展示風景より、「ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 ―自立と統合―」(前期)

──今回の展示で実現したいと思ったことを教えてください。

 最近は「歩くこと」に関心があります。在外研修中に街を歩くなかで気になったこと、最近歩いたときにやったことを並べてみました。歩くことについて何らかの発見や問いかけを表現したのではなく、自分自身でどう歩いてきたのかをただただ俯瞰して見たかったんです。これらはリサーチなのか、フィットネスなのか、アートなのか、なんなのか。

──美術家・演奏家、2つの肩書を持っているという点を踏まえて、吉濱さんはどのように作品ごとの表現方法を選択されているのでしょうか。

 発表する場所にあわせて「設置型」にするか「パフォーマンス型」にするかの違いしかありません。いずれにしても時間を要するわりには変化が小さい表現になりがちです。どんな表現であっても即物的で絵画的に表現しようと試みます。

──吉濱さんの制作活動におけるスタンスは「受け身であること」と伺いました。受け身であるとき、とくにどのような感覚が受容されるのでしょうか。

 Googleマップで目的地までのルートを検索すると最短ルートを提示されるため、地元の人しか知らない細路や中道に案内されることが多くあります。自分自身の都合で考えるならばそのルートを通るのが正解ですが、地元の人たちの視点で考えると、顔の知らない人が歩いているだけで警戒心が高まるのではないかと私は感じます。目的に向かって合理的にことを進めることだけが正解ではないと思うのです。相対するものが人であろうが自然だろうが、私がまず最初にできることは自分の都合のみを押しつけないことです。

──今回の展示を経て、今後取り組んでみたいと思ったことを教えてください。

 身近な人や協働する人たち、鑑賞者などとともにアフタヌーンティーをするような感覚で表現活動ができればと思っております。ひとりだとしても特別ではなく誰にでもできる方法で、軽やかに。