「学展」は、「全日本学生油絵コンクール」として1950年に設立。60年以上の歴史をもつ。主催する日本学生油絵会は、創始者の西田信一をはじめ、安井曾太郎、猪熊弦一郎など昭和を代表する8名の画家によって設立。1951年に第1回が始まって以降、毎年欠かさず開催されている。第1回のアトリエ賞には、当時高校2年生だった版画家・映画監督の池田満寿夫が選ばれていた。そのほかにも、多くのアーティストの発掘に寄与している。
第66回を迎えた今年は、油彩画、水彩画、イラストレーション、立体などの応募作品が全国から集結。会場には、日常の風景や人物、想像の世界などをモチーフに、独創的な表現から細密描写まで、若い感性あふれる様々な作品約734点が、所狭しと並んだ。学校や絵画教室単位での応募も多いせいか、来場者のなかには友だちや保護者同士で連れ立って見る姿も。展示された絵のなかから自分の作品を探したり、受賞者の絵をじっと見つめたり、親子で記念撮影をしたりなど多くの来場者でにぎわった。
「学展大賞」に輝いたのは、日本古来の妖怪たちを現代風にアレンジしひとつの技法にとらわれることなく描いた、駒込中学校高等学校1年生の水野幸司《百鬼夜行2016》だ。「学展特別奨励賞」を受賞したのは、山崎学園富士見高等学校1年生の伏見美琴による、大胆な筆致が特徴の油彩作品《奈良の鹿》。そして「審査員賞」に選ばれたのは、東海大学菅生高等学校2年生の渡辺彩光による《時間》。ダイナミックな構図で、小さな花を大きなキャンバスいっぱいに描いた。
3名の賞のほか、幼少部、小学部、中学部、高校部、一般部の各部門から計20名の「優秀賞」と、53名の「入賞」、また優秀な指導者や学校に贈られる「最優秀指導者賞」「最優秀学校賞」がそれぞれ選ばれた。
入賞者全員の表彰式が行われた8月18日には、入賞した子どもに加えその保護者など100名以上の人が集まった。表彰式の冒頭で、審査員の一人、平塚市美術館館長代理の土方明司は「レベルが高く激戦でした」とコメント。「現代的視点と技術的なレベルが光る作品を、賞に選びました。学展特別奨励賞と審査員賞は基本に忠実な油絵ですが、大賞作品はいままでになかった流れでしょう」と振り返った。
また、同じく審査を務めた美術評論家でデザイナーの須山秀一は、「例年に比べるとややおとなしい作品が多い印象」と評し、「小学校低学年までの作品は何にもとらわれない子どもの目線が特徴的。小学校高学年から中学生は子どもの表現がどのように変わっていくかという変遷が見え、さらに高校生以上は作品が技術と融合していった、といった傾向が見えました」と話した。
子どもの成長の過程に合わせ、表現方法も変化していく。それが顕著に見える展覧会だったことを、今回から新たに審査に加わったほかの2人の審査員も指摘した。「高校生以下の作品の審査経験は初めて」という『美術手帖』編集長の岩渕貞哉は、「小学生以下の絵は、ハッとするような視線で自由に描かれていました。世代が上がるに連れて技術も上がりますが、その視点の斬新さは薄れていくようです。技術を高めつつも、いかに規範から自由になり、見る人が楽しめる作品をつくれるか。アーティストになるためには、その壁をどう乗り越えていくか。大賞の作品はその壁を乗り越えつつあると感じた」と話した。
また、れもんらいふの代表も務めるアートディレクターの千原徹也は、「幼少期の感覚は年齢が上がると徐々に失われていきますが、広告の仕事をしていると、幼い頃の感覚を大事にしたり、他人が持ち得ない視点が求められたりします。見る人も、そういった視点でほかの作品を見てもらえれば」と、作品鑑賞の楽しみ方にも言及した。
後編では、学展大賞を受賞した水野幸司のインタビューを掲載。彼の作品づくりの背景に迫ります。