大阪でアジアの熱気を感じる。大阪発の国際アートフェア「UNKNOWN ASIA」が注目される理由とは?

2015年のスタートから今年で4年目を数える大阪発の国際アートフェア「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka」。アジア10ヶ国から200組を超えるアーティストが参加する本フェアが、9月14日〜16日の会期でスタートした。その見どころをレポートする。

「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka」会場風景

未知の才能を発掘する

 いまから3年前の2015年、「大阪からアジアへ、アジアから大阪へ」をキーメッセージに発足した国際アートフェア「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka (以下、アンノウンアジア)」。その第4回が大阪・梅田のハービスホールで開幕した。

 アンノウンアジアはその名の通り、「UNKNOWN(未知の才能)」を発掘することが大きな目的となっている。このフェアを立ち上げたのは、関西の人気ラジオ局であるFM802のプロデューサー・谷口純弘と、ACN(Asian Creative Netowork)メンバーでアーティストエージェンシーVISION TRACK代表の庄野裕晃だ。

「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka」会場風景

 4年目となる今年は、日本はもちろんタイ、インドネシア、韓国、台湾、中国、香港、マレーシア、フランスなど世界各国からクリエイターが参加。絵画や写真、立体などからイラスト、ジュエリーまで、多様なジャンルが揃う。

 参加クリエイターたちは各地でプロデューサーによるポートフォリオレビューを受けており、会場では審査を通過した212組が名を連ねる。会場のハービスホールでは各参加者が自分でブースを設営し、来場者を迎えるというのも特徴的だ。ここでは、そのなかからとくに注目したいクリエイターを紹介する。

開場直前までブースの設営が行われていた

アジア各国の才能に注目

 インドネシアを拠点にアート・ディレクターとして活動するワンシト・フィルマンティカがモチーフにしたのは実父の死。死に目に会えなかったことをいまでも悔やんでいるというフィルマンティカは、友人6人を起用し、生前の父との思い出をグラフィカルに再現した。

 テンペ(インドネシアの発酵食品)や魚獲りの網など日常的なモチーフを用いながら、父に扮したモデルたちはあくまでそのままの姿で、どこかファッションスナップを思わせる。その友人たちの姿によって、フィルマンティカは父の死に目に会えなかった罪悪感を少しずつ拭っていったのだと話す。

ワンシト・フィルマンティカ 理想的な死

 同じくインドネシアのアトレイユ・モニアガが見せるのは男性たちのヌードだ。キャンバスにプリントされた作品「Renung」シリーズは、どれもロマンティックな雰囲気を醸し出している。モニアガは当初、セルフポートレートをつくろうと考えていたが、「自分はフォトジェニックではない」という理由から断念し、モデルを被写体に選んだ。モデルは当然他者だが、モニアガは彼らを通して自分自身の姿を見つめ直しているのだという。

アトレイユ・モニアガ 「Renung」シリーズ

 ランパポーン・ヴォラシハの作品も、テーマは「人間の外見」だ。タイで生まれ育ったヴォラシハは、自分の外見をつねに気にしていたと話す。「タイの男性たちから『なぜそんなに太っているんだ? 君は痩せるべきだ』と何度も言われました」。この経験をもとに、「完璧な体とは何か?」をテーマにした写真作品「Flawress(完璧)」シリーズを制作した。

 そこに映っているのは、痩身したことでできた自身のストレッチマーク(肉割れ線)や、コンプレックスを抱える女性たちのパーツ(それは胸だったり背中だったりする)。社会の中で外見が評価の対象とされてしまうという事実と「いずれ消えてしまう体なのに、なぜ私たちはいつも自分の体を他人と比べてしまうのか」という疑問がそこには込められている。

ランパポーン・ヴォラシハ Flawress(完璧)」シリーズ

 会場でひときわ目を引くニホンザルの解剖図。これを描いたのは大阪芸術大学准教授の小田隆だ。これまで、美術解剖学をベースにした古生物の復元などを手がけてきた小田。自身で動物の解剖も手がけてきたが、その解剖シーンをを作品として展示するのは、このアンノウンアジアが初めて。

 「かつて命があったものがグロテスクに思われるのはなぜなのか」という問いから発したこの作品は、メメント・モリ(死を想え)ではなく「死体も生命体の延長であり、命が続いているもの」だという「生を想え」という意図が込められているという。

小田隆 Animal Anatomy - Macaca fuscata(Japanese macaque) 2018

加速するUNKNOWN ASIA

 今回の会場でとくに目立つのがアジアからの参加者の存在感だ。これについて設立者のひとりである谷口はこう語る。「スタートから4年かかってようやくここまで来ましたね。私たちは長い時間をかけてアジア各地のキーパーソンとのつながりを構築してきました。いまでは彼らから口コミでアンノウンアジアのことがアジアに広まって、参加者がどんどん集まってくるんです」。

設立者のひとりである谷口純弘

 いまや、アジアは中国やシンガポールを中心にアートシーンが加熱しており、世界中から注目を集めている。そんななか、アンノウンアジアの立ち位置は独特だ。「大阪は空路でのアクセスがとてもいいので、アジアとの距離が近いんです。だからクリエイターたちも動きやすい。今回は台風の影響が心配されましたが、みんな集まってくれました」。

 今年で4年目となるアンノウンアジアだが、そこには興味深い傾向があるという。「前回展でどんな作品が評価を受けたかによって出品作の傾向が変わってくるんです。例えば去年はタイの写真家であるパム・ヴィラーダが、台北のフォトフェア・ワンダーフォトデイのディレクターであるファン・イェン・ウェンから賞を受賞しました。その影響で今年はアジアの写真家たちがたくさん応募してくれた」。

会場風景

 参加したクリエイターから別のクリエイターへ、アンノウンアジアが人と人とをつなぐプラットフォームになっている。谷口はこう続ける。「だからフェア会場だけがアンノウンアジアじゃないんです。そこから先がすごく重要。クリエイターの次のステップにつながる場をつくることが大事ですね」。

 また、アンノウンアジア恒例となっているのが、谷口による参加者全員のレビューだ。200組以上にのぼる全員の作品に対しプロデューサーがレビューをするというシステムは、ここ以外にないだろう。その情熱が、新たな参加者を呼んでいる。

谷口自ら全ブースを回る

 「ぜひ多様性とカオスを見てください。これだけ多くの国からクリエイターが集まる場もなかなかありませんし、『ここで自分をアピールするんだ』というエネルギーに満ちあふれている。見る側もきっと刺激を受けるはずです」。

 すでにアジアで存在感を高めつつあるが、将来的には「アンノウンアジア」の名を冠したフェアを海外で展開したいと話す。

 来年の5回展ではさらに規模を拡大することが決まっているアンノウンアジア。アジアのアートシーンとともに勢いを増すからこのフェアから目が離せない。

 

編集部

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