「『工+藝』 KO+GEI 2024」開幕レポート。老舗・東京美術倶楽部の新たな挑戦

1907年創立の東京美術倶楽部が、新たな試みとして現代工芸作家48名の展覧会「『工+藝』 KO+GEI 2024」をスタートさせた。会期は5月26日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より

 1907年に創立した東京美術倶楽部(東京都港区)が、新たな展開を見せた。それが、現代工芸作家48名が集う展覧会「『工+藝』 KO+GEI 2024」(5月23日〜26日)だ。

 東京美術倶楽部は約500名の美術商を会員とする大規模な団体。その分野は、茶道具、古美術、鑑賞陶器、刀剣、蒔絵、西洋骨董、近現代絵画や工芸など幅広い。日本の優れた美術品の保存・活用ならびに美術に対する正しい認識と理解の普及を図ることを目的として、評価鑑定をはじめ、様々な活動や事業を展開してきた。

港区にある東京美術倶楽部

 日本美術業界では最古のグループである同社が新事業としてスタートさせたのが、「『工+藝』 KO+GEI 2024」。これは、現代の工芸界を牽引する招待作家11名と、世界的に注目される新進気鋭の推薦作家37名の計48名の未発表作品を一堂に展示・販売するというものだ。

 招待作家は、秋山陽、十四代今泉今右衛門、隠﨑隆一、川瀬忍、関島寿子、土屋順紀、畠山耕治、前田昭博、前田正博、三上亮、十三代 三輪休雪の11名。また推薦作家は、青木宏憧、猪倉髙志、伊藤秀人、内田鋼一、小野川直樹、加藤巍山、加藤高宏、加藤亮太郎、木野智史、小曽川瑠那、五味謙二、崎山隆之、澤谷由子、島村光、スナ・フジタ、瀬戸毅己、瀧本光國、田中里姫、四代 田辺竹雲斎、出和絵理、新里明士、西久松友花、西村圭功、野口寛斉、橋本雅也、長谷川清吉、服部真紀子、福田亨、増田敏也、桝本佳子、松永圭太、見附正康、ミヤケマイ、山村慎哉、留守玲、若杉聖子、和田的の37名が名を連ねる。

 会場にはこれらの作家の作品が整然と並び、その存在感をアピールしている。初日にはすでに多くのコレクターたちが足を運び、熱心に作品に見入る様子がうかがえた。

推薦作家の展示風景より、澤谷由子《露絲纏》(2024)
招待作家の展示風景より、加藤巍山《道標》(2024)
招待作家の展示風景より十三代 三輪休雪《エル・キャピタン》(2023)

 なぜ東京美術倶楽部は工芸にフォーカスした企画を考案したのか。その背景について、同倶楽部の黒田康男は、「世界発信が念頭にある。グローバルマーケットでも日本の工芸は高い注目を集めており、東京美術倶楽部の新たな展開として、ここをメインにしようという当社社長で実行委員長・中村純の考えのもと、11名の委員が集結し、実現した」と語る。

 今回は、推薦作家から4名が「特別賞」(秋元雄史賞、菊池寛実記念 智美術館 賞、中田英寿賞、山下裕二賞)に選ばれるほか、東京美術商協同組合員、480店舗の店主及び、青年会会員90名が会場での作品を実際に見て投票し、決定・表彰する「東京美術倶楽部大賞」も選ばれる予定だ。

推薦作家の展示風景より、四代 田辺竹雲斎《五大虚空》(2023)
推薦作家の展示風景より、福田亨《吸水》(2024)

 東京美術倶楽部は多くの美術商が集まった団体ゆえに、これまで特定の作家を顕彰するということには消極的な面があった。しかしこうした作家支援の側面を打ち出すことで、美術商は作家があってこそ成り立つという図式を明確にする狙いもある。これも、東京美術倶楽部にとっては新たな試みと言える。

 加えて、「『工+藝』 KO+GEI 2024」は完全入場無料で誰もが見ることができる点は象徴的だ。東京美術倶楽部は通常、会員のみが出入りする場所であり、一般的にその存在の認知度は高いとは言えない。ここを物理的にオープンにすることで、あらためて同社の取り組みを広めたい考えだ。

 長い歴史を持つ東京美術倶楽部が踏み出す新たな一歩。今後は、ジャンルにとらわれず、他団体と連携していきたい考えも示す。世界の美術品市場規模は23年時点で650億ドル(約9兆6100億円)。日本のシェアはそのうちわずか1パーセントに過ぎない。東京からマーケットを盛り上げるため、東京美術倶楽部がこれまでのカテゴリーを超え、さらなる挑戦を続けることが期待される。

東京美術倶楽部の2階には日本庭園もある
茶室「済美庵」では本格的薄茶も楽しめる

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