2021年からリニューアルのため休館していた横浜美術館が、今年3月15日に約3年ぶりに再開館する。それにあたり、同館が目指す「新しい美術館の姿」に関するビジョンが発表された。
同館が目指す姿は「ミュージアムメッセージ」「じゆうエリア」「サイン計画およびリニューアルロゴ」の3つで表されている。
新たに発表された「ミュージアムメッセージ」は「みなとが、ひらく」だ。横浜という港町ならではの視点で「多様性」の課題と向き合いながら、人々の豊かさに寄与していく考えが「ステートメント」や「5つの願い」にも示されている。メッセージを担当したのは、コピーライターの国井美果。
美術館は、港のようだと思います。
どんな人も歓迎する。
来るもの、出るもの、多様な文化や価値観が交錯する。
今と過去と未来を中継する。
バリアもボーダーも飛び越えていく。
そして、世界にひらかれた港町の美術館として
歩んできた私たちは、さらに思うのです。
ここに訪れるすべてのあなたもまた、港なのだと。
自由な出会い。豊かなまなび。自分らしくいられる時間。
みて、つくって、まなんで。見晴らしのいい気分で、
未来へ針路をとるために。
たとえ時代が変わっても、今日という暮らしのそばで
横浜美術館は、
あなたという港がひらく場でありたいと思います。
(横浜美術館「わたしたちのビジョン」より「ステートメント」)
1.誰もが尊重され、自分らしくいられる場でありますように
2.人、もの、考えとの新たな出会いの場でありますように
3.今日を生きるよろこびを感じる場でありますように
4.このよろこびが、美術館から街へと広がりますように
5.ひとりと、地域と、世界がつながる場となりますように
(横浜美術館「わたしたちのビジョン」より「5つの願い」)
また、同館設計者である建築家・丹下健三が、来館者が自由かつ自発的に使いこなすことを期待して生み出した建物入り口の「グランドギャラリー」は、その意図に立ち返ることで、入場無料の「じゆうエリア」に。空間内には様々な色やかたちの家具が設置され、新時代を象徴するより開かれた場所となるようだ。さらに、美術館前に広がる「美術の広場」からもなかの様子を見ることのできるガラス張りのギャラリーも新設されるほか、これまで3階にあった美術図書室は地上階に移動。より気軽な利用を促すリニューアルとなる。グランドギャラリー内にはエレベーターを1基増設することで、ベビーカーや車椅子での館内移動もより快適となるようアップデートされるという(2025年2月完成予定)。
サイン計画やロゴもリニューアルされる。1989年の開館時にグラフィックデザイナー・浅羽克己により設計された同館のシンボルマークとロゴタイプを踏まえ、「変化」「ひらくこと」をキーワードに活動再開を記念する特別なものへと生まれ変わる。空間構成、サイン計画は建築家・乾久美子が、空間構成、サイン計画、リニューアルロゴはグラフィックデザイナー・菊地敦己がそれぞれ務めた。
2020年4月1日付で横浜美術館の新館長に就任した蔵屋美香は、再開館に向けた資料内で次のように語っている。
3年にわたる休館中、わたしたちは検討プロジェクトを立ち上げ、これからの美術館の姿について考えました。
たどり着いたのは、いまやどの美術館、博物館にも求められる「多様性」という課題に、横浜らしいやり方で応える、という結論です。
(中略)
こうしたハード面の整備は、『新たなものに出会い、それを受け入れる場』となる第一歩として、まずは多様な方々に美術館へ足を運ぼうと思っていただくための、いわば土台の部分です。
この土台の上に、わたしたち一人ひとりがどのような態度でお客さまをお迎えするか、というソフトの面が加わって、美術館ははじめて理想に近づきます。
(中略)
高い理想を掲げましたが、その実現は一朝一夕に成るものではありません。これから長い航海に出るわたしたち、横浜美術館の新しい船出を、どうぞ見守ってください。
2024年 1月 横浜美術館ᅠ館長 蔵屋美香
(「出航──横浜美術館のこれから」より一部抜粋)。