2023年、イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』によるアート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」で1位に輝いた、アーティストのナン・ゴールディン。そのドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』(原題:All the Beauty and the Bloodshed)が、3月29日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、グランドシネマサンシャイン池袋ほかにて全国公開される。
ナン・ゴールディンは、自身が陥ったオピオイド中毒(*)について、事態改善を訴える団体「P.A.I.N」を設立。オピオイドの普及のきっかけをつくったサックラー一族の名を冠するメトロポリタン美術館「サックラー・ウィング」で抗議行動を行うなど、この問題について闘い続けてきた。2019年にもPower 100で2位にランクインするなど、大きな影響力を持つアーティストだ。また今年はベルリンの新ナショナルギャラリーで個展「Nan Goldin: This Will Not End Well」(11月23日〜2025年2月23日)の開催も予定されている。
本作『美と殺戮のすべて』は、そんなゴールディンの闘いを描いたローラ・ポイトラス監督のドキュメンタリー映画。ヴェネチア国際映画祭最高賞(金獅子賞)を受賞したほか、第95回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされるなど、高い評価を得ている。
この映画を通して、ナン・ゴールディンの闘いの軌跡をたどりたい。
*──オピオイドはケシから抽出した成分やその化合物から生成された医療用鎮痛剤(医療用麻薬)で、優れた鎮痛効果のほか多幸感や抗不安作用をもたらす。1995年、米国では製薬会社パーデュー・ファーマがオピオイド系処方鎮痛剤「オキシコンチン」の承認を受け、常習性が低く安全と謳って積極的に販売。主に疼痛治療に大量に処方されるようになり、2000年頃から依存症や過剰摂取による中毒死が急増。全米で過去20年間に50万人以上が死亡し、大きな社会問題となっている。