2021.6.24

「アーツ前橋あり方検討委員会」の第1回が開催。アーツ前橋の将来を議論する前提を整理

借用作品を紛失し、作品の総点検のために休館中のアーツ前橋。その今後を考える委員会「アーツ前橋あり方検討委員会」の第1回が前橋市役所で開催された。会の議論の要所を抜粋してお伝えする。

第1回「アーツ前橋あり方検討委員会」の様子
前へ
次へ

 借用作品を紛失し、作品の総点検のために休館している群馬・前橋市のアーツ前橋。その今後を考える委員会「アーツ前橋あり方検討委員会」の第1回が6月24日、前橋市役所で開催された。

 アーツ前橋は、収蔵を視野に入れた作品調査の過程で、借用した6作品を紛失。その原因を検証する調査のために設置された「アーツ前橋作品紛失調査委員会」の報告書では、当時の館長の住友文彦と担当学芸員が紛失した6作品を除いたリストの制作や、紛失作家の展覧会開催の提案などを検討していたことなどが指摘されている。同館は、紛失問題を受けて作品の総点検のために休館中となっており、次期館長も未定となっている。

 「アーツ前橋あり方検討委員会」は、今後のアーツ前橋について検討し、提言を作成することを目的とするもの。紛失委員会の報告を受けたうえで、中長期的なアーツ前橋のあり方を検討することを目的としており、開館後の活動を振り返りながら、現状と課題の整理や中長期的なアーツ前橋のあり方の検討、そしてそれらをまとめた報告書の作成を行う。

 委員メンバーは以下の11名。青野和子(原美術館ARC館長)、大橋慶人(前橋中央通り商店街振興組合理事長)、金井訓志(元前橋の美術実行委員会委員長/画家)、小池藍(GO FUND,LLP代表パートナー)、小山登美夫(小山登美夫ギャラリー・代表)、島敦彦(国立国際美術館館長)、中島信之(元前橋市芸術文化施設運営検討委員会委員長)、中村ひろみ(演劇プロデュースとろんぷ・るいゆ主宰)、野本文幸(特定非営利活動法人まやはし代表/アーツカウンシル前橋委員)、萩原朔美(前橋文学館館長)、渡辺秀人(株式会社渡辺広報事務所代表取締役)、小坂和成(前橋市行政管理課長)、田中力(前橋市文化国際課長)。また、市の事務局から提示する資料の説明については、アーツ前橋・副館長の徳野裕一が担当した。

 委員長にはアーツ前橋を設立する際の「芸術文化施設運営検討委員会」の委員長を務めていた中島が、副委員長には渡辺が選出。中島は「いまいちど検討委員会を開かなければいけないことを残念に思う。再びアーツ前橋を信頼のあるかたちにすることで、紛失作品の所有者に対しての責任を果たすことを目指す。アーツ前橋を見つづけてきた自分は、多くの情報を知りうる立場にあり、委員会を通じて公平公正な立場で提言を行う」と語った。

 委員会内では、「前橋市における美術館基本計画」(2010年11月)や「芸術文化施設のあり方に関する提言」(2012年7月)といった資料を参照しながら、改めて設立当初の計画や理念を確認。

 なかでも注目したいのは「前橋市における美術館基本計画」のなかにある収蔵庫についての記述だ。前橋市はアーツ前橋設立前の時点で850点ほどの作品をすでに所有しており、そのなかでも貴重かつ安定した環境のもとでの保管が必要な400点をアーツ前橋に収蔵、加えてその後の新規収蔵を加味したうえで、300平米程度の収蔵庫を整備するという方針が示されている。実際に建設されたアーツ前橋の収蔵庫の面積は400平米を超えており、当初の計画より100平米ほど大きい収蔵庫が用意されていたことがわかる。現在の所蔵作品数は開館時(2013年度)は509点だったが、2020年度には836点まで増加した。

 この収蔵庫のキャパシティと現状について、事務局側としては収蔵ペースが想定以上に早く、それほど多くの余裕があるわけではないが、決して足りないわけではないという認識を示した。紛失が発生した旧校舎に一時保管されていた作品も、その後すべて一次保管庫に移送されている。いっぽうでこのまま収蔵品を増やしていくのであれば、中長期的な視点で、将来的に収蔵庫を新たに用意することも考えなければならないとの認識も示した。

 また、学芸員数については、2013年度〜2017年度は任期付き正規1人、準常勤5人だったのが、2018年度に任期付き正規3人、準常勤4人になり、2021年度現在は任期付き正規4人、準常勤3人と徐々に改善されている。しかしながら、任期期限がない正規の学芸員がひとりもいない状態が開館以来続いており、これについて事務局は、厳しい人数体制であり、課題があると述べた。

 なお同委員会では「アーツ前橋作品紛失調査委員会」の報告書についても言及。作品紛失で明らかになった構造的な問題が指摘された。

委員会内で提示された「作品紛失事案で明らかとなった問題の3層構造」の図

 各委員からは、作品収蔵状況を伺えるビジュアル資料の提供や、紛失作品の詳細情報などを求める声が上がり、次回以降の開催時にまとめた資料を配布する方向性が示された。

 会の最後に事務局は、紛失作品の著作権者による意向を踏まえたうえで、未来永劫、紛失に関わる資料をアーツ前橋の職員が閲覧できるようにしたうえで、あり方委員会においてもまずは問題の根底を議論し、アーツ前橋としての考えをまとめるべきとの考えを示した。

 今後、委員会の会合は3回開催。第2回と第3回は7月と8月に実施し、今回の情報共有をもとに課題意見の交換を行う。4回目となる9月の委員会では報告書を取りまとめ、9月末から10月中を目安に公開する。

※6月25日に再開館日程の目安が発表されることに伴い、再開館予定についての記述は削除しました。(編集部)