フィンセント・ファン・ゴッホが自殺する直前に描いた作品《木の根と幹》。これを描いた正場所が、ヴァン・ゴッホ研究所の科学ディレクターであるバウター・バンデアベーンによって特定された。
ゴッホは1989年にサン・レミの精神病療養所に入院し、翌年の5月にパリ郊外のオーヴェール=シュル=オワーズを次の静養地として選び移住。療養の傍ら制作を続けたが、同年7月27日にピストルで自殺を図ったとみられており、その2日後に自身の画業を支えてきた弟・テオに看取られて死去した。《木の根と幹》は、その自殺直前に描かれたゴッホの遺作だ。
今回、バンデアベーンは、丘の中腹に生えている木の幹と根を含む風景を描いたポストカードを発見。ファン・ゴッホ美術館の上級研究員や歴史的な植生を専門とする昆虫学者に報告・相談し、ゴッホの仕事の習慣や絵画とポストカード、丘の中腹の現在の状態を比較検討した結果、「非常に信憑性が高い」と結論づけられた。
バンデアベーンは今回の発見について次のようにコメントしている。「この神秘的な絵画のすべての要素が、絵葉書とその場所を観察することで説明できる。この場所は、ゴッホが身近な場所からモチーフを描く習慣を持っていたこととつながる。ゴッホが描いた太陽の光は、この作品が午後の終わりに向かって描かれたことを示しており、自殺に終わる彼の劇的な一日の経過について、より多くの情報を提供している」。
また、ファン・ゴッホ美術館の上級研究員であるタイオ・メーデンドルプは、「私たちの意見では、バンデアベーンが特定した場所は正しい可能性が高く、注目すべき発見である」としつつ、次のように見解を述べている。
「よく観察してみると、この絵葉書に描かれている生い茂りは、ゴッホの絵に描かれている根のかたちと非常によく似ている。《木の根と幹》がゴッホの最後の作品であることは、より特別なものであり、ドラマチックでさえある。(今回特定された)この地域は、ゴッホがほかの絵画ですでに描いていた場所。彼が人生の最後の週に何度か絵を描き、自ら命を絶つことになったオーヴェール城裏手の野原に行くとき、この場所を通ることが多かったはずだ」。
なおファン・ゴッホ研究所は地元自治体と協力し、モデルとなったこの場所を保護し、一般見学できるように保護用の看板を設置。ゴッホの絵筆が最後にキャンバスに触れた場所を訪れることができる。