2020.6.22

ヨコハマトリエンナーレ2020の開催概要が発表。5つの「ソース」からコロナを経験した世界の先を描く

ヨコハマトリエンナーレ2020 「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」の開催を前に、その概要がオンラインで発表された。会期は7月17日〜10月11日。

エヴァ・ファブレガス ポンピング 2019
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 7月17日より、横浜美術館やプロット48を中心に開催されるヨコハマトリエンナーレ2020 「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」。その開催概要が発表された。当初、同トリエンナーレは7月3日からの開幕を予定していたが、新型コロナウイルス感染症を受けて、十分な安全対策を講じるために7月17日からの開催となった。会期は10月11日まで。

 横浜トリエンナーレ組織委員会の逢坂恵理子は、新型コロナウイルスによる影響が継続するなかでも、世界のトリエンナーレ・ビエンナーレに先駆けて開催を決定したことについて以下のように話す。

 「自粛要請のなかでも多くの文化施設がオンラインで発信を続けその可能性を広げてきた。しかし、私たちは、生身の人間がその場に足を踏み入れ、作品を感じ、反応し、そして考えるという実体験が最も大切で、それが人間のバランスをとるものだと考えている。一人ひとりが実作品を前に考え、次なるステップに進むきっかけとしてほしい。また、創作活動を中断させることなくトリエンナーレを開催することが、アーティストの支援にもつながると考えた」。

オンラインでの記者発表より、左から横浜トリエンナーレ組織委員会の逢坂恵理子、蔵屋美香

 アーティストの来日が叶わないなかでも、オンラインでのビデオ会議や、写真のやり取りなどを繰り返して展示準備を進めており、海外からの作品の輸送も、現時点では滞りなく行われているという。また、今後の各国の判断により、渡航が可能になった秋ごろの段階で、様子をみつつアーティストの来日を検討するとした。

 同トリエンナーレのアーティスティック・ディレクターを務めるのは、3名のインド人アーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」。3人は、「独学──自らたくましく学ぶ」「発光──学んで得た光を遠くまで投げかける」「友情──光の中で友情を育む」「ケア──互いを慈しむ」「毒──世界に否応なく存在する毒と共存する」という5つの「ソース」をもとに今回のトリエンナーレをつくりあげる。

ラクス・メディア・コレクティヴ 写真=田中雄一郎 写真提供=横浜トリエンナーレ組織委員会

 ラクス・メディア・コレクティヴは開催にあたり以下のようにコメントを寄せた。「お互いに物理的に離れざるを得なくなってしまったこの時期に、コンセプトを深めるために選んだ『ソース(source、 源泉の意味)』という5つのテキストにもう一度立ち戻り、ソースにある考え方がアーティストたちの作品づくりによって押し広げられ、発展していることを確認することができた」「この展覧会は異なる規模の動作が連なるように企画されている。それは、人類(種)、風景、エコロジー、地政学的揺らぎとしての人の歴史、親密さの描写、それから、時折、人間の居住と非人間(non-human)のそれとを混同してしまうような動きだ。これらすべての状況を踏まえて、トリエンナーレは、あらゆる身振りや感情、そして、いたわるためのケアのテクネに注意深く目を向ける」。

 組織委員会の蔵屋美香は、同トリエンナーレにおけるラクス・メディア・コレクティヴの活動とともに、主要なアーティストについて紹介した。

 蔵屋はラクス・メディア・コレクティヴが、明確にひとつのコンセプトを設定するのではなく、5つの「ソース」から要素を抽出しながら、考えを固めず流れるように展覧会をつくっていることを強調。また、「ソース」のうちの「毒──世界に否応なく存在する毒と共存する」は、新型コロナウイルスの世界的流行の前に考案されたものにも関わらず、未来を予見するかのうようなテーマとなっていたことも指摘。情報のみに凝り固まるのではなく、連想のおもしろさや、考えを通じて成長する過程を重視しながら展覧会をつくりあげる意義を語った。

 さらに蔵屋は、4名の参加アーティストをピックアップして紹介。

 アメリカ・シカゴを拠点に活動するニック・ケイヴは、自宅の庭に飾る「ガーデンスピナー」を使った作品を横浜美術館のエントランスホールで展示。ガーデンスピナーが光を反射し美しい光景をつくり出すが、なかには銃を模したものが混ざり込んでいるなど、光と毒が共存する様相が表現されている。

ニック・ケイヴ 回転する森 2016 (c)Nick Cave, Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery Photo by James Prinz

 スウェーデン出身のインゲラ・イルマンは、美しい花を咲かせるために世界中に移植されながらも、光によって毒をつくり出す光毒性を持ち、人が触れると皮膚炎などを引き起こす植物「ジャイアント・ホグウィード」をモチーフとした立体作品を展示。光と毒、それぞれがつくる美しさについて観客に問いかける。

インゲラ・イルマン ジャイアント・ホグウィード(部分)  2016/2020 Photo by Sebastian Dahlqvist

 インドのレーヌカ・ラジーヴは、素描、版画、刺繍など、創造の赴くままに線を引く作品を制作するアーティストだ。人や植物や文様が絡み合うように描かれ共存する世界が、同トリエンナーレでも表現される。

レーヌカ・ラジーヴ サイボーグは敏感 2020 (c)Renuka Rajiv

 ロンドンを拠点とするエヴァ・ファブレガスは、柔らかな素材によって彫刻を制作している。ラクス・メディア・コレクティヴは、ファブレガスの作品が腸のような形状であることに着目。多くの菌とともに生きている人間の腸が、内側ながらも外に開かれた世界であるという連想から、展示の一端を担うことになった。

エヴァ・ファブレガス ポンピング 2019

 そのほかにも、国内外より60組以上のアーティストが招聘される。約半数が日本を含むアジア大洋州、約4分の1が中東、中南米およびアフリカが占め、欧米が同じく約4分の1を占めることからもわかるように、先端的かつ活発な現代美術の活動の重心が、非欧米圏に移りつつあることを意識してアーティストの選定が行われた。日本からは青野文昭、新井卓、飯川雄大、飯山由貴、岩井優、岩間朝子、金氏徹平、川久保ジョイ、佐藤雅晴、さとうりさ、新宅加奈子、竹村京、田村友一郎らが参加する。

 会場での感染症対策は日本博物館協会のガイドライン等に従う。来場者にはマスクの着用や、入口での手指消毒やサーモグラフィーでの検温協力、ソーシャルディスタンスの確保などを要請し、スタッフのマスク、手袋、フェイスシールドの着用を徹底する。

 チケットは日時指定の予約制で、事前に公式ウェブサイトからチケットを購入できる。チケットは6月23日より発売される。