斬新かつ挑戦的で、生物の形態のような立体作品を手がけた工藤哲巳(1935〜90)と、性・心理的なアサンブラージュ、絵画、ドローイングを独学で描いたカロル・ラマ(1918〜2015)。2人の立体・平面作品20点を紹介する展覧会が、東京・表参道のファーガス・マカフリー東京で開かれる。
第二次世界大戦後の急進的な東京アートシーンで存在感を増した工藤哲巳。工藤は62年、パリへと活動拠点を移し、批評家のジャン=ジャック・ルベルや作家のアラン・カプローを通じハプニング運動に加わった。その後40年にわたり、人工的で生物学的な形態を混合させ、溶けた肌、切断された手や目、そして溢れる内臓などの強烈な描写の見られる彫刻作品群を日常品やファウンド・オブジェクトを用いて制作。それらの作品を通し、ポスト・ヒューマンな思考、そして「新たなエコロジー」への展開を見せた。グロテスクで異世界を想起させる作品群は、環境汚染やユートピア・ディストピア、そしてポスト・ヒューマニズムなどの問題を取り上げている、今日の環境芸術の先駆けとも言える。
いっぽう、カロル・ラマは水彩、義眼、使用済みの自転車タイヤ、剥製や熊の爪や牙などの素材を用いて、70年にわたって身体、セクシュアリティ、欲望などを追求。作家のサイコ・セクシュアルな絵画やドローイング、そしてアサンブラージュ的な抽象画は、近年になり世界の美術界から注目され始め、2003年のヴェネチア・ビエンナーレでは金獅子賞を受賞した。また、「The Passion According to Carol Rama」(パリ市立近代美術館、2015) 「Carol Rama: Antibodies」(ニュー・ミュージアム、ニューヨーク、2017)などの回顧展が相次いで開催された。
エロティシズムや抑圧、狂気や解放といったテーマを取り扱うために長いあいだ破壊的とみなされ、30〜40年代イタリアのファシスト政権下では検閲されていたラマの作品。しかし、ラマのこれらの作風は、監禁や抑圧に対する女性の性的抵抗の爆発を象徴する。70年代には、治療された腸、萎えた男根、また負傷した皮膚を思わるタイヤのチューブ(インナーライナー)を使用した作品を発表。後の具象作品のひとつである「Mad Cow」シリーズでは、狂牛病を発症した牛の顎や歯、そして人間のそれに似 た牛の乳房などのイメージを用い、90年代のヨーロッパ農法によって、恐ろしいほどに汚染された生態系を批判した。
唯物主義、セクシュアリティ、暴力性、そして消費主義などといった現代社会を生きる私たちにも広く深く関わる事柄をテーマとしてきた工藤とラマ。2人が共有する極端な感受性と、素材とマテリアルに対する破壊的とも言える姿勢は、両者の作品を並べて観賞することでよりあらわになる。