花や鳥や虫など、身近なものを明快な線と色で描いた作品で知られる画家・熊谷守一(1880〜1977)。飄々とした味わいを持つエッセイでも知られ、『へたも絵のうち』(原著は1971、現・平凡社ライブラリー刊)は現在もロングセラーとなっている。
岐阜県で生まれた熊谷は、1900年に東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学し、青木繁ら同級生とともに黒田清輝らの指導を受け、人体のデッサンや闇の中でのものの見え方などを探究。その後も、膨大なスケッチを重ねながら様々な表現方法を模索した。ユーモラスで何気なく描かれたようにも見える熊谷の作品だが、その背後には科学者のような観察眼と考え抜かれた制作手法が隠されている。
最新の研究成果を踏まえて行われる本展では、《雨滴》(1961)、《猫》(1965)などの代表作をはじめとする200点以上の作品を紹介。「画業の始まり」「さまざまな模索」「線と色の完成」(章タイトルはすべて仮)の3章で構成される展示を通し、熊谷の人生とそのおおらかな画風が確立されるまでの軌跡をたどる。