今年2月から⽂化庁が全国7空港と東京国際クルーズターミナルでスタートさせた⽂化発信プロジェクト 「CULTURE GATE to
JAPAN」。このプロジェクトは、各空港を会場に、メディア芸術のアーティストやクリエイターが各エリアの⽂化資源を題材にした作品を展⽰するというものだ。このなかでもとくに注目したいのが、羽田空港・成田空港で展開されている「VISION GATE」だろう。
「VISION GATE」は、⽇本⽂化に通底する過去から未来へと続く「VISION」を伝える作品を展⽰するもの。ニューヨーク近代美術館(MoMA)建築・デザイン部⾨シニア・キュレーター兼R&D部⾨創設ディレクターのパオラ・アントネッリがキュレーションを手がけている点が大きな特徴だ。
アントネッリは本展に際し、「日本は、世界中の多くの人にとってもっとも『異国』を感じる場所といえるでしょう」としつつ、「日本はテクノロジーの最先端に立っていますが、その革新は伝統の上に立脚することで成立しており、未来を思考するに際しても、過去に対する深い認識が存在してます。日本の文化とは、モノや概念を継続的に再構築する『VISION』を持つ文化なのです」とのコメントを発表。本展は、この「VISION」を8組の作家が表現した作品で構成されている。
インスタレーション作品は、羽田空港第2ターミナル2階の出発ロビーD保安検査場前に展示。映像作品は、羽田空港第3ターミナル到着コンコース、羽田空港第1・2ターミナル出発エリア、そして成田空港ターミナル内デジタルサイネージで放映されている。なかでも注目したいのが、羽田空港第2ターミナル2階で圧倒的な存在感を示すスズキユウリ+細井美裕の《Crowd Cloud》だ。
ともにサウンドアーティストであるスズキユウリと細井美裕が初めて共作したこの作品は、「VISION」を⾳で表現したもの。膨大な数のホーン型スピーカーから流れるのは、⽇本語の「あ」から「ん」までのひらがな(清音、濁音、半濁音等すべて)を抽出し、アルゴリズムによって再構築された独特な音。意味から切り離された日本語が生み出すサウンドスケープは、様々な音が行き交う空港でも確かに耳に届く。
いっぽう、羽田空港第3ターミナル到着コンコースや羽田空港第1・2ターミナル出発エリア、そして成田空港では、新作の映像作品を見ることができる。参加作家はacky bright、井上純、児⽟幸⼦、PARTY、茂⽊モニカ、森万⾥⼦。
例えば、2000年より磁性流体のアートプロジェクトを行っている児玉幸⼦は、開発されたばかりだという⾚・緑・⻘⾊の蛍光磁性流体を使い、磁⼒と重⼒で⽇本庭園を表現。まるでCGのように鮮やかで精緻な動く彫刻は、多くの人々の視線を釘付けにするだろう。
また、世界各国の国際展にも参加する森万⾥⼦について、アントネッリは「森万里子ほど自然に『VISION』の概念を伝えることができるアーティストはいない」と評する。近年、日本神話を探求する森は、本展で「古事記」から天照大神が須佐之男命の剣を真名井の神水で清める場面をCG映像で表現。水面に映る姿はモーションキャプチャーによって三次元データとして再現されたもので、身体性のない人物像として描かれている。
なお羽田空港の映像作品はすべてゲートエリア内にあるが、オンラインでも公開されているので公式サイトをチェックしてほしい。またインスタレーションについては、誰でも鑑賞可能となっている。