戦後ドイツを代表するアーティストのひとりであるヨーゼフ・ボイス。そのポスター作品に焦点を当てる展覧会「BEUYS POSTERS 2021」が、東京・渋谷のミヤシタパークにあるアートギャラリー「SAI」で開催されている。
人間は誰もが芸術家であると主張したボイス。彼にとって芸術とは、人間が自らの持つ創造力を用いて新たな社会をつくりだそうとするすべてのプロセスを指すもの。そのなかには、およそ芸術とはみなされてこなかった政治的な活動も含まれており、人々に社会参画を促す集会やアクション、呼びかけなども対象となっている。
本展では、ボイスが人々との共同作業によって成り立つポスターに注目。ボイスが残したポスターは、約290種類にものぼる。その制作においてボイスは、デザインや文字組などの細かい指示を行わず、デザイナーやプリンターにほとんどすべての工程を任せていたという。
こうしたポスターはボイスにとって、政治的ステートメントや問題提起を発信し、大衆の社会参画を促す大きな力を持つもので、自らの思想や主張を大量にばらまき、そしてそこに描かれた以上のことを想像させる媒体でもあった。また、ポスターにしばしば現れるボイス自身の顔や姿は、見る者に強烈な印象を残し、ボイスのカリスマ的イメージの形成にもつながった。
本展の元となったのは、2014年に閉館した清里現代美術館の伊藤修吾・信吾によるボイス関連の膨大なポスターおよび書籍のコレクション。キュレーションはSAIのディレクター・木村俊介が担当した。
木村は、「ボイスは一般的なイメージとしてはとっつきにくく難解と思われる部分もあると思うが、ボイスの作品やアクションの背後にはどれを切り取っても必ずメッセージとストーリーがある」と話す。
展示会場では、1953年にボイスがコレクターで年下の親友であったグリンテン兄弟の家で開催した初個展のポスターから、自由国際大学(FIU)関連、ドクメンタでのパフォーマンス、7000本の樫の木やハニーポンプ、脂肪の椅子を発表した時のポスター、そしてグッゲンハイム美術館で開催された回顧展や、レネ・ブロック・ギャラリーで開催された伝説的なパフォーマンス「I like America and America likes me」 のポスターなど多岐に渡る作品を紹介している。
そんなボイスのポスターについて、木村はこう語っている。「どのポスターを見ても制作者のこだわりが細部まで感じられると思う。こうしたポスターは単純にデザインという視点から見ていただいても非常に洗練されており、ボイスにまだ親しみがない方にとっても興味深いものになるのではないかと思う。本展覧会を通してボイスを知り、多くの方に興味を持っていただくきっかけになればと思う」。
そのほか、ボイスが教鞭を執ったデュッセルドルフ芸術アカデミーを通じて交流のあった作家、ブリンキー・パレルモとゲルハルト・リヒター、そして国際的パフォーマンス集団のフルクサスで活動をともに行ったジョン・ケージの作品なども同時に展示。出品点数は76点におよぶ。
たんなる告知や作品の副産物であることを超え、ひとつの作品として成り立つポスター。それを手がかりに、ボイスの思想および同時代のアートシーンを振り返ってみてはいかがだろうか。