マシュー・バーニー、キャロリー・シュニーマン(1939〜2019)、白髪一雄(1924〜2008)、田中泯による展覧会が、青山のファーガス・マカフリー東京で開催されているる。会期は2021年1月23日まで。
1955年より具体美術協会に入会した白髪は、手、指、足を直接用いることで油絵具と泥における重量、粘着性を探求。パフォーマンスと絵画の融合によって、物質を操作する行為を「全身を活性化させるプロセス」としてとらえた。ロープによって空中に体をとどめ、自らの身体を描くという行為に沈み込ませるなどの演劇的なアプローチを見せた。本展では、これまでほとんど展示されることがなかった黒単色の作品《蛭子》(1992)を展示。その表面には、体をすべり込ませ、緊張させ、即興で動かすことでエネルギーの生成をとどめようとする実験性が力強く表れている。
田中は、精神物理的な探求において白髪と共通点を持つ。本展では、コロナ禍に山梨県での隔離生活中に撮影された15分の映像を発表。撮影地は、白州の山中に位置し、1985年から土地や動物、古くからある地元農家と深いかかわりを持つダンサーのコミュニティーの拠点「身体気象農場」。同作のなかで田中は、現在の非現実的な現状を反映するように感情にあふれ、絶妙な物理的ニュアンスに富んだ身振りをとらえる。これは舞台の設置を手助けした美術家・原口典之(1946~2020)へのオマージュでもあるという。
主にパフォーマンス作品を発表してきたシュニーマンは、絵画をイメージとつくり手が合体した行為だととらえ、自身の制作プロセスの基礎として取り組んだアーティストだ。本展の出展作品《Up to and Including Her Limits》は、1970年代に何度か公共の場で発表されたパフォーマンスだ。最後の制作は、アーティストのスタジオで08年にプライベートで行われた。アメリカ戦後美術と直接的な関連性を持つとされているこの作品は、男性優位の領域に女性の参加を拒否し続けた美術史に対する鋭い理解を吹き込んだ。
そしてシュニーマンの次の世代に生まれたマシュー・バーニーは、強制力や抵抗に対抗する道具として身体を用いる。作品をかたちにしようという制作意欲の前に自ら妨阻を置き、その障害物に直面しながら作品を生み出していく。制作と競技的な身体トレーニングの相互関係のなかで作品を成立させるという独自のスタイルを持っている。
長編映画、大型彫刻、写真作品群から成る《DRAWING RESTRAINT 9》(2005)は、マシュー・バーニーの日本文化に対する研究と、そこから受けたインスピレーションの集大成であり、日本文化と「変容」との関係性を物語る。つねに多くの議論を呼んできた捕鯨工場船が映画の主人公であり、《DRAWING RESTRAINT 9》の要素のひとつである《The Cabinet of Nisshin Maru(日新丸)》(2006)は、この捕鯨船が持つ特性を強調する。本展ではこの彫刻作品を発表。同作には、自己完結型の「器」として機能し、船の錨やホースノズル、東洋からの客人たちが映画終盤で変容を遂げる際にお互いの体を切り込むナイフといった、物語の重要な要素が象られている。
ダンスやパフォーマンス、絵画、彫刻など多様なアプローチを取りながら、身体性について独自の哲学を体現してきた4名のアーティスト。各時代を代表する4名の作品が一堂に集結する本展では、すでに確立されていたかたち、物質、構成についての美術史的解釈に挑む新しいビジョンの組み立てが目指される。