ユカとケンタロウからなる姉弟ユニット「SHIMURAbros」は、新たな映像装置の発明によって既存の枠を超えたイメージを実体化してきた。2010年に第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞して以来、カンヌおよびベルリン国際映画祭での上映をはじめ、国立新美術館やシンガポール国立大学美術館、台北現代美術館、パース現代美術館など、世界各地の美術館で作品展示を行っている。近年は、恵比寿映像祭への出品やNTU CCA Singaporeのレジデンスプログラム参加など、活動の幅は広い。
17年には、『ArtReview Asia』誌の「A Future Greats」に選ばれたSHIMURAbros。ポーラ美術振興財団在外研究助成を得て拠点をベルリンに移し、現在はオラファー・エリアソンのスタジオに研究員として在籍し活動中だ。
現在、そのSHIMURAbrosの最新作《Evacuation》が、東京・銀座の東京画廊+BTAPで展示されている(~4月11日)。本作は、19年にSHIMURAbrosがゲーテインスティチュートからの助成を得て、カリブ海のキュラソー島で滞在制作をした映像/インスタレーション作品。ゲーテインスティトゥートのためのコミッション作品だという。この展示は、シンガポール国立大学美術館のキュレーター、シャビール・フセイン・ムスタファによる同インスティチュートへの推薦により実現した。
本作の制作のきっかけは、17年の京都府舞鶴市におけるアーティスト・イン・レジデンス。そこで隣町の敦賀に多くのユダヤ人難民が滞在していた歴史を知ったSHIMURAbrosは、そのルートを開いた杉原千畝のリサーチを開始した。杉原は、第二次大戦中のリトアニアで、ナチスに迫害されたユダヤ人に日本通過ビザを発行し、彼らの命を救った外交官であり、SHIMURAbrosは、オランダ領キュラソー島が、杉原が発行したビザの「名目上の行き先」となっていた事実に関心を持ち、綿密なリサーチのもと本作を手がけた。
作品では、美しい海と平穏な街並みの映像が続き、亡命ユダヤ人たちのインタビューに基づくモノローグが語られる。杉原千畝とユダヤ人難民の歴史的エピソード、奴隷貿易の拠点として栄えたキュラソー島に伝わるドラムミュージック、またベルリンを拠点に活動する自らの移民としての経験など、様々な事実と物語、時間軸が絡み合い、ひとつの映像経験をかたちづくる。