「ヴィデオ・アートの父」の生涯を振り返る。ナム・ジュン・パイクの大回顧展がテート・モダンで開催中

1932年に韓国に生まれ、日本、ドイツ、アメリカでも活動していたヴィデオ・アートの開拓者であるナム・ジュン・パイク。その大規模な回顧展が、2020年2月9日までロンドンのテート・モダンで開催されている。初期の作品から大規模なテレビ・インスタレーションまで、200点以上の作品を通してパイクのキャリアをたどる。

 

展示風景より、《Internet Dream》(1994) (C) Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley (C) Tate

 「ヴィデオ・アートの父」として知られているナム・ジュン・パイク(1932〜2006)。その大規模な個展「Nam June Paik」が、ロンドンのテート・モダンで開催されている。

 本展は、テート・モダンとサンフランシスコ近代美術館が共同で企画したもの。初期の作品やパフォーマンスから、ヴィデオや大規模なテレビ・インスタレーションまで、200点以上の作品が展示され、パイクの50年にわたるキャリアをたどる。

展示風景より、《TV Garden》(1974/2002) © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate

 冒頭部では、巨大なインスタレーション《TV Garden》(1974/2002)が展示。青々と茂った木の葉の庭から生えているように見える数十台のテレビで構成された本作では、自然と技術が一体となっている。

展示風景より、右は《Robot K-456》(1964) © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate

 パイクによる最初のロボット作品《Robot K-456》(1964)に加え、4つの衛星動画を上映する部屋も設けられている。1980年代に制作されたこれらの動画は、ピーター・ガブリエル、ローリー・アンダーソン、デイビッド・ボウイ、ルー・リードなど大衆文化のアイコンのイメージを使って、その時代の「MTV美学」を定義したものだ。

 1932年韓国生まれのパイクは、日本、ドイツ、アメリカでも活動していた。前衛芸術家、作曲家、デザイナー、詩人による国際的なネットワーク「フルクサス」の中心メンバーとして、国境と分野を越えたコラボレーション活動を展開。本展では、パイクが作曲家のジョン・ケージをはじめ、マース・カニンガム、ジョセフ・ボイスらとのパートナーシップにも注目している。

展示風景より、《TV Cello》(1971) © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate

 例えば、《TV Cello》(1971)や《TV Bra for Living Sculpture》(1969)は、チェリストのシャーロット・モーマンとコラボレーションした作品。パイクのテレビ彫刻を精巧な衣装や小道具に組み込み、挑発的なパフォーマンスを行ったこれらの作品は、ヴィデオと写真とともに紹介されている。

展示風景より、《TV Buddha》(1974) © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate
展示風景より、《One Candle》(1989) © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate

 また会場には、《TV Buddha》(1974)や《One Candle》(1989)など禅や道教、仏教の影響を示した作品も並ぶ。パイクの初個展「Exposition of Music - Electronic Television」(1963)も部分的に再現され、初期のテレビ操作や生放送もここで紹介されている。第45回ヴェネチア・ビエンナーレのドイツ・パヴィリオンで金獅子賞を受賞したインスタレーション《Sistine Chapel》(1993)も初めて再現された。

 なお、本展はサンフランシスコ近代美術館のほか、アメリカ、オランダ、シンガポールの美術館へも巡回する予定だ。マスメディアと新技術の重要性を予見し、学際的な実践を展開していたパイクの作品を、会場で目撃してほしい。

展示風景より、《Sistine Chapel》(1993) © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate
展示風景 © Estate of Nam June Paik. Photo by Andrew Dunkley © Tate

編集部

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