「彼」をめぐる回想を軸に。奥村雄樹の個展「彼方の男、儚い資料体」が慶應義塾大学アート・センターで開催

ヴィデオ、パフォーマンス、テキスト、キュレーションなど様々な媒体を用いて「自画像」「自伝」の新たなあり方を探り、翻訳家としても活動するアーティスト・奥村雄樹。その個展「彼方の男、儚い資料体」が、東京・三田の慶應義塾大学アート・センターで開催される。会期は11月11日〜22日。

ジャン=ユベール・マルタンの撮影による写真(1993)より

 奥村雄樹は1978年生まれ、2012年東京藝術大学大学院博士後期課程修了。現在はブリュッセルとマーストリヒトを拠点に、翻訳家としても活動する。これまでアイデンティティや作家性といった概念を問いながら、他のアーティストたちとの作品・生活との芸術的/個人的な重なり合いを通して、新たな「自画像」「自伝」のあり方を探ってきた。

 近年の主な個展に「29771日–2094943歩」(ラ・メゾン・デ・ランデヴー、ブリュッセル、2019)、「奥村雄樹による高橋尚愛」(銀座メゾンエルメス フォーラム、2016)、「な」(@KCUA、2016)などがある。

 そんな奥村の個展「彼方の男、儚い資料体」が、東京・三田の慶應義塾大学アート・センターで開催される。会期は11月11日~22日。

 本展の中心となるのは、「彼」と呼ばれる誰かをめぐる9人の回想からなる映像作品《彼方の男》(2019)。本作で奥村は、ひとつのイメージへと固定化された「彼」の振る舞いの束を一連の手続きを通じて解体し、写真乾板を重ねるようにイメージを多層化する。「彼」は9人の発話を通じて複数の「彼ら」となり、鑑賞者は誰にでも似た存在でありながら、まったく誰にも似ていない「彼方の男」に出会うことになる。

 加えて会期中には同作にあわせて、関連する3点の物品で構成された資料体が同館のアーカイヴに追加。本展は、アーカイヴにとって資料とは何か、資料を通じてどのような可能性が開かれるのかといった問題について、鑑賞者に新たな思索を促すだろう。

編集部

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