千葉県立美術館がアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」との共同企画で作品展をスタートした。その第1弾として、ロンドンを拠点に活動を行っているアーティスト アリシヤ・ロガルスカの個展が開催されている。
ロガルスカはポーランド生まれ。2011年にゴールドスミス・カレッジにて美術修士号を取得。作品制作を通じて、資本主義や移民、ジェンダー、労働、過疎化といった現代社会が抱える不透明な問題と、それに代わる未来のかたちをテーマに据えて、資本主義「後」の可能な未来のシナリオを表現してきた。
特定の地域やコミュニティーで「他者」として生活し、そこでのリサーチやフィールドワークをもとにした住民との共同制作やワークショップを行ってきたロガルスカ。パフォーマンス、映像、インスタレーションなど多岐にわたるプロジェクトは、「いま」「ここ」において異なる政治的リアリティを実践するものであり、様々な声が人々の耳に届き、共存できる空間の創造を試みる制作過程においても、つねに未来への解放のためのアイデアが人々とともに模索される。
ロガルスカが展望する「未来」の景色とはどのようなものか。その景色を想像するための実験的なパフォーマンスの記録映像である《Dreamed Revolution(夢見る革命)》(2014~15)で、ロガルスカは、ポーランドの劇場に地元の活動家100人を集め、催眠術にかけた。催眠状態にある活動家たちが普段は言えないこと、行わないことを考えながら、より自由に未来のひとつのかたちを想像しあう様子が記録されている。
いっぽう《Broniow Song(ブロニュフ・ソング)》(2012)は、ポーランド北東部のある田舎町の現状に焦点を当てた映像作品だ。豊かなフォークソングの伝統をもつ同地は、その反面、失業率が高く、社会的にも経済的にも困難な状況にある。同作が写し取ったのは、ノスタルジックな民族衣装に身を包んだ人々が、そのイメージに覆い隠された「現状」を、ユーモアとアイロニーを込めて歌う姿だ。
本展では、上記の2作品のほか、淡く揺れ動く光や水のなかで、近代が夢見た平等社会とその失敗を鋭く対比させた《Chiaroscuro City Series(キアロスクーロ・シティ・シリーズ)》(2011)や、インドネシアのストリート・ミュージシャンが路上で自らの生活模様を歌う《My Friend’s Job(友達の仕事)》(2017)なども展示されている。