杉浦邦恵は1942年名古屋生まれの写真家。63年に単身渡米し、シカゴ美術館附属美術大学で写真を専攻。現在、杉浦の作品はニューヨーク近代美術館、ホイットニー美術館、ボストン美術館、東京国立近代美術館、東京都写真美術館など、国内外問わず多くの美術館で所蔵されている。
シカゴに留学していた60年代当時、アートスクールでは絵画や彫刻が主流とされており、写真を専攻する学生は杉浦を除いてほとんどいなかったという。しかし杉浦は、「表現としての写真」の可能性に注目。魚眼レンズによる歪み効果の使用や、人物と風景のモンタージュ、ソラリゼーション(現像時に露光をある程度過多にすることによって、モノクロ写真の白と黒が反転する現象のこと)、モノクロとカラーネガを併用するなど、制作プロセスを重視した実験的手法によって写真表現を探求していった。
67年にニューヨークに拠点を移してからは、写真の伝統や因習を破ることを試みていく。アクリル絵具やキャンバスを作品に取り入れるなど、写真と絵画を融合させるような手法を展開。その一方で、「写真は光によって描かれるメディアである」という根源的な視点に立ち帰りながら、伝統的な写真の手法をもとに、植物、動物、人間へとモチーフを発展させ、独自の様式を生み出した。
「杉浦邦恵 うつくしい実験 ニューヨークとの50年」展は、杉浦の50年を超える写真家人生をたどる回顧展。杉浦作品が持つ写真表現の先駆性と独自の世界を体感してほしい。