闇を幻視し、写し取る。
「内藤正敏 異界出現」展が
東京都写真美術館で開催

東京都写真美術館が、異色の写真家・内藤正敏の個展を開催。内藤の50年を超える軌跡をたどり、その刺激的な表現に通ずる作家独自の世界観に迫る。会期は2018年5月12日〜7月16日。

内藤正敏 お籠りする老婆 高山稲荷 (「婆バクハツ!」より) 1970 東京都写真美術館蔵

 内藤正敏は1938年東京都生まれ。早稲田大学理工学部で化学を専攻し、その後フリーの写真家として、いまもなお精力的に活躍している。

 1960年代、内藤は、宇宙と生命をテーマに化学反応によって生まれる現象を接写。「生命の起源」や「宇宙の生成と消滅」のありのままの姿をとらえ、SF的な魅力を持った写真は、早川書房『ハヤカワ・SF・シリーズ』の表紙を飾り、注目を集めた。

内藤正敏 「コアセルべーション」より 1962 作家蔵

 内藤は25歳のとき、山形県・湯殿山麓での即身仏との出会いに大きな衝撃を受け、4×5カメラで即身仏のモノクローム撮影を始める。この戦慄の体験は、化学専攻出身の若い内藤にとって強烈なカルチャーショックであり、作家人生に大きな影響をもたらしたという。

 

 その後は東北地方での民間信仰に興味を持ち、同時に複数の関心を多層的に重なり合わせることによって、さらに豊かな表現を獲得。恐山のイタコたちを即興的に撮影したシリーズは、東北の民間信仰のダイナミズムを直感的に写しとっている。作家の代表作である「婆バクハツ!」や、民俗学の創始者・柳田國男の著書をベースに展開された「遠野物語」は、タイトルのユニークさも相まって、圧倒的なインパクトだ。

内藤正敏 死者供養をする老婆、恐山 (「婆バクハツ!」より) 1969 東京都写真美術館蔵

 内藤にとって「モノの本質を幻視できる呪具」である写真と、見えない世界を視るための「もうひとつのカメラ」である民俗学。このふたつをツールに、幻のような「異界」を出現させる作家の軌跡は、今日の私たちに深い洞察を与えてくれるだろう。

編集部

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