中平卓馬は1938年東京生まれの写真家・批評家。2015年に惜しまれつつ逝去したが、没後もその評価は続き、17年には、シカゴ美術館で「Circulation」展、台北で「中平卓馬」展が開催され、評論集の翻訳出版も進行している。
中平は雑誌『現代の眼』編集者を経て、60年代半ばより写真を撮り始める。同時期に写真、映画、メディアに関する執筆も開始し、68〜69年にかけて多木浩二、高梨豊、岡田隆彦、森山大道らとともに写真同人誌『プロヴォーク』を刊行、続く70年代も、写真集『来たるべき言葉のために』、映像論集『なぜ、植物図鑑か』、さらに篠山紀信との共著『決闘写真論』の刊行など精力的に活動を続けた。
77年に病に倒れ、一時は生死をさまよい記憶の大半を失うほどであったが、翌年より撮影を再開、03年には、横浜美術館で初期から当時までの作品を網羅する展覧会「原点復帰ー横浜」を開催し、注目を集めた。
本展では、74年に東京国立近代美術館で開催された「15人の写真家」展に、中平が制作・発表した作品《氾濫》を再現する。《氾濫》は、48点のカラー写真からなる横6メートル、縦1.6メートルにおよぶ巨大なインスタレーション作品。壁を這う蔦、路上のマンホール、大型トラックのタイヤ、ガラス越しにみる水槽の鮫、地下鉄構内など、中平が遭遇し捕獲した「都市の断片」ともいうべき写真群で構成されている。
本展は同名の写真集刊行(Case Publishing刊)にあわせて開催されるもの。会期中には、批評家の倉石信乃、八角聡仁を招いたトークイベントも開催し、展示、写真集とともに、制作から40年以上を経た中平の大作を再考し、その写真的思考と実践を改めて読み解いていく。